管理系部門がIPO準備でやることPart.18 -人事編⑥-
- 長嶋 邦英

- 12月21日
- 読了時間: 7分
「管理系部門がIPO準備でやること」について、今回も引き続き人事編です。

ここ数回、以下の記事でIPO準備期の人事の役割についてご紹介しながら皆さんと一緒に考えております。これまでの人事編は以下のとおりです。
なぜここまでIPO準備期の会社での人事を取り上げているかというと、他の会社の人事の業務と比べて少々違う点があること。また、業務それぞれを個別にみると、他の会社の人事の業務とは明らかに違うかたちの活動を行い、その業務量は増加するからです。
今回の記事では、かなりピンポイントですが、給与計算について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
IPO準備期の給与計算で心掛けたいこと③
前回の記事「管理系部門がIPO準備でやることPart.17 -人事編⑤-」では、IPO準備期の会社の給与計算と他の会社の給与計算とではやることが少々違うということをご紹介しました。何が違うかというと、①規程等ルールの整備、②規程等ルールの法令等遵守、③規程等ルールの完全実施。この3つのポイントを厳格かつ正確に実施することが求められる、というものです。このうち①規程等ルールの整備については前回の記事でご紹介しましたので、今回は②規程等ルールの法令等遵守について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
法令等の遵守については、何も給与計算だけに限ったお話ではありません。すでにご紹介している採用、労務管理についてもそうです。加えて、IPO準備期の会社の給与計算でも他の会社の給与計算でも同様です。しかしIPO準備期の会社の給与計算は、今後上場した後で法令等を厳格に遵守しなければならない点と、遵守するのは法令だけでなく「法令等」となっている点が他のそれとの違いとなります。上場会社となれば、責任が問われるからです。
法令等を厳格に遵守しなければならない点ですが、これは上場会社には「コンプライアンス(法令遵守)」の義務があります。J-SOX、US-SOXそれぞれに書かれている内容に若干の違いがありますが、大きな目的は一緒です。
J-SOX:財務報告の信頼性(内部統制の6つの目的の一つ)
US-SOX:企業統治と財務統治の透明性
ここでよく誤解されることがあります。「内部統制は財務報告の信頼性、透明性が問われているのだから、財務報告に関係する法令を遵守していれば良い」という誤解です。財務報告に関係する法令というと、頭に思い浮かぶのは金融商品取引法、会社法、税法(法人税法、所得税法等)がありますが、それらを遵守するだけで財務報告は作成できません。今回の記事でご紹介している給与計算の数字は財務報告の中の「給与、手当」に計上される数字だけではなく、社会保険料(健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険)は「法定福利費」や「預り金」に計上されるものですが、この社会保険料に関する法令だけでも数多くあります。また、そもそも勘定科目「給与」は労働基準法、最低賃金法、労働契約法等様々な法令を遵守したうえで計算される数字ですので、給与計算の業務ほど数多くの法令を遵守しなければならない業務はない、と言っても過言ではないと考えます。それに加えてIPO準備期の会社の給与計算は、これらの法令を正確に厳格に遵守しなければなりません。なぜなら、上場会社となれば財務報告を開示しなければならず、寸分の間違いも許されない立場となるからです。もしいったん開示された財務報告に間違いがあった場合は改めて開示し直さなければならず、そのやり直しはステークホルダーからその会社に対する「信用・信頼」に大きく影響します。ですから上場会社は細心の注意を払います。それに、この人件費全般は、会社の財務諸表の中でも金額的に大きな割合を占めます。ですから給与計算で少しの間違いがあった場合はそれが会社の財務諸表全体に大きく影響するという、その大きな責任をこの給与計算の業務を担当する皆さんが担っているのです。でも安心してください。前回の記事でご紹介した「①規程等ルールの整備」がしっかりと行われ、このルールを遵守するための手順・マニュアルもしっかりと整備されていれば、問題無く正確な給与計算ができます。
このように考えますと、すでに皆さんもお気付きのとおり「①規程等ルールの整備」と「②規程等ルールの法令等遵守」はどちらが先でどちらが後とか、どちらが重要だとかいうものではありません。ルールの整備の際には法令遵守を念頭に考え、法令遵守するためにはルールを合理的かつ効率的に整備する必要があります。ぜひこの点をしっかりと押さえて整備することをお勧めします。
IPO準備期の給与計算で心掛けたいこと④
「②規程等ルールの法令等遵守」でもうひとつ押さえておきたいポイントがあります。それは、「法令」だけでなく「法令等」を遵守するという点です。これは遵守するのは法令だけではないということです。その代表例は「会計基準(企業会計基準)」です。会計基準も給与計算の業務に影響している点を忘れないでください。会計基準と聞くと、給与計算の業務を担当する皆さんには無関係と思われるかもしれません。会社の財務諸表に給与等を計上するのは経理部門ですが、その根拠資料を作成するのは給与計算の業務を担当する皆さんです。ですから根拠資料は、会計基準に定められている要素を網羅必要があります。根拠資料に誤りがあればその誤りのまま計上されることになりますし、計上に必要な数字が根拠資料に無ければ、計上することができないからです。そのため給与計算の業務を担当する皆さんも会計基準を、少なくともその要素だけでも理解していただけたらと思います。(例えば引当金勘定(賞与、有給休暇等)が挙げられます。)
給与計算と会計基準の関係では、皆さんの会社でも四半期・期末決算で行う決算整理仕訳で計上する「預り金」(社保料、源泉税等)と「未払費用」(時間外手当等)の計上でもご苦労があるのではないでしょうか。社保料、源泉税等は毎月従業員の皆さんの給与から徴収して預り金として計上し翌月には納付するので、なかなか間違えるものではないと思われるかもしれませんが、稀に四半期・期末決算時になると合わないことがあります。理由としては期中の従業員の入退職、しかも勤怠締め日ではなく月中が退職日となった退職者が多い会社では、合わないケースがあります。徴収しなくてよい退職者から徴収していたとか、逆に徴収すべき退職者から徴収漏れしていたというもので、これが1名だけなら良いのですが数名発生していた場合はとても難儀です。財務諸表全体の金額から見れば少額かもしれませんが、その少額がいつまでも財務諸表に残っていることは財務報告の正確性、信頼性に影響します。じつは極めて芳しくない状態です。そもそも、その少額でさえも発見できない業務チェック体制も問題視されてしまう可能性があります。そのため①規程等ルールの整備」と「②規程等ルールの法令等遵守」の中でご紹介しているとおり、給与計算に関する手順・マニュアルは会計基準を含む法令等を遵守し、しっかりと整備することが必要だと考えます。給与計算の業務については、最近では人事関連のSaaSサービスや会計システムのオプションを利用したり、社会保険労務士の先生方に委託するなどして社内の給与計算の業務を最小化する傾向があるかと思いますが、もし皆さんの会社でもそうであっても、決して誤りの無い給与計算の業務を確立するため、手順・マニュアルを整備することをお勧めします。
IPO準備期の会社の給与計算でいろいろ細かい点を挙げているため、記事が長くなりまして申し訳ございません。今回は心掛けたいことの3つのポイントのうち②規程等ルールの法令等遵守を皆さんと一緒に考えてみました。次回は③規程等ルールの完全実施について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。もう少しだけお付き合いください。
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