管理系部門がIPO準備でやることPart.17 -人事編⑤-
- 長嶋 邦英

- 13 分前
- 読了時間: 7分
「管理系部門がIPO準備でやること」について、今回も引き続き人事編です。

ここ数回、以下の記事でIPO準備期の人事の役割についてご紹介しながら皆さんと一緒に考えております。これまでの人事編は以下のとおりです。
なぜここまでIPO準備期の会社での人事を取り上げているかというと、他の会社の人事の業務と比べて少々違う点があること。また、業務それぞれを個別にみると、他の会社の人事の業務とは明らかに違うかたちの活動を行い、その業務量は増加するからです。
今回の記事では、かなりピンポイントですが、給与計算について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
IPO準備期の給与計算で心掛けたいこと①
まずはじめに、なぜIPO準備期の給与計算について取り上げるのかを説明します。
IPO準備期の給与計算については、その「やること」自体が他の会社の給与計算と少々違います。何が違うかというと、①規程等ルールの整備、②規程等ルールの法令等遵守、③規程等ルールの完全実施。この3つのポイントを厳格かつ正確に実施することが求められるのです。前回の記事では、労務管理の業務にある2つの要素(「法令等の遵守」と「従業員の心身」)をご紹介しましたが、給与計算の業務においては「法令等の遵守」が求められます。そのため、今回の記事では厳格かつ正確に実施することが求められる3つのポイントを「法令等の遵守」の目線で、皆さんと一緒に考えてみます。
一つ目のポイント①規程等ルールの整備についてです。これは一般的には労働基準法等労働関係法令に定められている各種のルール・制度等を、会社の規程等によって遵守する体制を整備することです。サラッとご紹介していますが、実際に労働関係法令に定められている各種のルール・制度等を会社の規程等に反映させる作業は、かなり至難の業です。人事関連規程には、就業規則、給与(賃金)規程、育児・介護休業に関する規程、安全衛生管理規程など様々ありますが、ここで皆さんに質問です。人事関連規程で、労働基準法にその作成が義務付けられている規程はいくつあるでしょうか?じつは厳密には「就業規則」だけです(労働基準法第89条)。その他の人事関連規程は、常時10人以上の労働者を使用する事業場には各種人事関連規程の労働基準監督署への届出が義務付けられているというものです。そして肝心なことは、届出が必要なのは「〜規程」ではなく、本来就業規則に記載すべき事項(絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項)の有無が問われているのであり、「〜規程」の有無ではありません。要するに絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項がどの人事関連規程に定められているのかが問われているというもので、いくらたくさんの人事関連規程を新規制定/改定したとしても絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項が定められていなければムダになります。このポイントは、IPO準備期の会社のうちかなり多くの会社で見落としがちなポイントです。よく聞くのは「規程はいくつ新規作成すれば良いか?」、「〜規程があるから、大丈夫か?」というご質問ですが、先のとおり規程はその名称や数が問題ではありません。絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項が定められているのか。法令以下の定めとなっていないか。つまり内容が重要なのです。絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項を見てみますと、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職(退職手当の決定、計算及び支払の方法など)、臨時の賃金、安全及び衛生、職業訓練、災害補償・傷病扶助、表彰・制裁などがあります(※労働基準法第89条をご参照ください)。これに、会社でパート・アルバイト・契約社員の皆さんが在籍されている場合は、先に挙げた各事項のパート・アルバイト・契約社員についての事項などが挙げられます。ここでもサラッといくつかの事項を挙げましたが、多くのIPO準備期の会社ではこれらを一挙に規程等ルールを新規制定したり、既存の規程等ルールを改定することになります。これだけでも大変な作業量です。
そして、じつはもっと大変なことがあります。それは、これら絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項を会社の事業年度中(いわゆる「期中」)に新規制定/改定することが難しい点です。これが多くのIPO準備期の会社での最大の見落としポイントです。この見落としポイントが大きな問題となる点として、
新規制定/改定する事項・内容のすべてが従業員の皆さんにとって好条件なものだけでなく、芳しくないものがあること。
新規制定/改定する人事関連規程を労働基準監督署へ届出する際に、従業員の意見書が必要であること。
新規制定/改定する事項・内容の性質上、会社の期中に新規制定/改定することが難しいものがあること。
先に挙げた絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項は多岐にわたります。ですからここではその一つ一つ挙げながら上の見落としポイントを説明することは割愛しますが、給与計算で心掛けたい一つ目のポイント①規程等ルールの整備では、時間的制約などがあることを忘れないでいただきたいです。
IPO準備期の給与計算で心掛けたいこと②
一つ目のポイント①規程等ルールの整備については、もうひとつ忘れてはならないことがあります。さきほど給与計算で心掛けたい一つ目のポイント①規程等ルールの整備では、時間的制約などがあり、見落としポイントを3つ挙げました。これらはいずれも労働関連法令の遵守の観点で挙げたものです。別の観点で忘れてはならないものがあります。それは会計の観点です。これも先の見落としポイントに加えたいところですが、観点が違いますので別で挙げました。
会社の会計では、人件費(労務費、販管費いずれも)の割合がとても大きいです。労務費、販管費のどちらに計上するか。その計算が少しでも誤ると、会社の粗利(売上総利益)、営業利益に大きな影響が及びます。そのように考えると、期中に人件費の計算に大きく影響するような人事関連制度の変更を行えば、会社の会計に大きな影響があることは必然です。さらに、特にIPO準備期の会社では会計基準の厳格かつ正確な遵守が求められ、例えば引当勘定特に引当金については賞与、退職金、有給休暇等を正確に計算しなければなりません。ですから、IPO準備期ではこの給与計算の業務に関するルールとマニュアル整備、さらには業務ボリューム増加に対応するための人員採用等の対応が必要になります。これを見落とすケースが多いです。給与計算の業務を担当している人員がいままで1〜2名、又は1名+外部委託(社会保険労務士事務所等)であったとしても、IPO準備期及びIPO後もそのままの体制で対応可能かというと、かなり難しいと思います。これについては皆さんの会社でも現在の給与計算の業務の内容と業務量(時間)等の状況と今後増えるであろう業務の内容と業務量を十分検討して、必要に応じて外部委託先と協議するなどして準備することをお勧めします。その検討、協議する際は、以前の記事「Part.14 - 人事編② -」、「Part.15 - 人事編③ -」で取り上げましたIPO準備期の採用計画も踏まえて検討、協議してください。IPO準備期の採用計画は数十名以上の増員となるケースが多く、そうなれば給与計算の業務にかかる業務量はもちろん増加します。ここを見誤ると給与計算の業務に係る予算(人件費、外部委託に係る費用等)も大幅に見誤ることとなります。この点をぜひ忘れないでください。
今回はIPO準備期の給与計算で心掛けたいことの一部(3つのポイントのうち①規程等ルールの整備)を皆さんと一緒に考えてみました。次回は、3つのポイントのうち②規程等ルールの法令等遵守、③規程等ルールの完全実施について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「Corporate(管理系)部門 業務支援」サービスでは、
IPO準備中企業のCorporate部門の業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業のCorporate部門の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業のCorporate部門にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(法務業務支援など)
この機会に、ぜひCorporate部門のあり方、必要性をご理解いただき、Corporate部門の業務体制構築/再構築、業務支援をご検討ください。



コメント