企業法務の在り方 Part.09 -契約書雛形-
- 長嶋 邦英

- 3 日前
- 読了時間: 7分
企業法務の業務範囲はとても広いです。専門性の高い業務や、幅広い知識と深めの経験値を求められる業務など様々です。そのような状況の中で、企業法務の皆さんは会社、役員、部門・部署、従業員の方々からの要請・依頼に十分に応えられるかどうか。いろいろな角度を通して、皆さんの会社それぞれの企業法務の在り方を確認してみましょう。

会社が契約書雛形を持つことの意義①
今回の記事では、皆さんの会社にもある「契約書の雛形」について法務と内部統制の観点から皆さんと一緒に考えてみたいと思います。この「企業法務の在り方」シリーズでは、本来は法務の観点のみを扱うところですが、先般の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫Part.24-内部統制とリテラシー教育-」でご紹介したとおり、法務にも内部統制の要素が含まれていることから若干ですが触れたいと思います。
会社が契約書雛形を持つことは一般的ですが、それではなぜ雛形を持つのか、強いて言えばなぜ雛形を持たなくてはならないのかを考えたことはありますか?雛形を持つことの意義は次のように考えられています。
<契約書雛形を持つ意義>
法的リスクの回避
作成工数の削減
契約内容の品質均一化 ほか
1と2は業務効率の要素が大きいもので、これが最大の理由として契約書雛形を持つことが多いと思います。しかし法務の観点からみると、これらの意義の中で最も重要なのは「契約内容の品質均一化」と考えます。これは会社にとって生命線(「生きるか死ぬかの分かれ目になる絶対に守らなければならない最も重要な限界」の意味で取り上げています)とも言えるものです。例えば、会社は主たるサービス・商品等を販売して業績をあげていきますが、業績をあげるためには多くの顧客様(会社・個人を問わず)に販売することが必要です。そのとき、それぞれの顧客様ごとに契約内容(金額、利用条件等)をバラバラに取り決める必要があるでしょうか。それこそ法的リスクが増大すること、それぞれの顧客様ごとに契約締結までの工数が増えて業務効率が悪化します。それに加えて、顧客様ごとに契約内容バラバラであることが顧客様にとって不利益な内容かもしれません。顧客様はどのように感じるでしょうか。「もう二度と買わない/使わない」と思われるかもしれません。「契約内容の品質均一化」は業務効率というよりは、会社の生命線である契約書をどのように守るのか、法務の要素が非常に高いものだと考えます。
法務の要素だけですと、その会社の法務担当者の考え方等が大きく作用してしまうことが考えられますが、それでは会社の仕事とは言えませんし、その一人の従業員の考え方等で会社の事業が推進されるようなことがあってはなりません。そこには必ず会社の方針(ポリシー)が必要です。このように考えると、契約書雛形を見ればその会社の方針や考え方がわかるものであると言えます。逆に言えば、会社の方針や考え方を定めずに契約書雛形を作ってしまったり、よくあることですがインターネット上で検索した雛形をそのまま会社の契約書雛形として使用している場合、契約書に精通している方が見れば「会社の生命線を疎かにしている」とすぐにわかります。契約書雛形は業務効率等でいえばとても便利なものですが、その会社のことがすぐにわかってしまうという反面もあり、とても怖いものです。これに関連してもう一つ。この契約書雛形を扱う営業・販売部門の担当者がどの程度契約書雛形の内容を理解しているのか、ということも重要です。もし理解度が浅ければ、その会社の質が問われることもあります。社員教育のテーマの中に、ぜひ契約書に関する教育を入れることをお勧めします。
会社が契約書雛形を持つことの意義②
上の項で会社が契約書雛形を持つことの意義を法務の観点から見てみました。これからもうひとつの観点である内部統制の観点で見ていきます。
さきほど、契約書雛形に会社の方針(ポリシー)が入っていること必要だとご紹介しました。これには2つの側面があります。
1つ目の側面として、契約書は、単に契約条件を提示してそれらに各契約当事者同士が合意したことを証するためだけに存在するのではありません。各契約当事者にどのような債権債務が存在し、どのように負担するのか(=リスクテイク)。一方の契約当事者はその債権債務に存在するリスクをどの程度負担するのか(=リスク低減)。このような内容を条文にして示しています。このリスクテイクとリスク低減を決めるのは、会社の判断です。一人の営業担当者やその上長ではありません。そのために一つの契約を締結するたびに稟議申請して、決裁権限に従って承認を得るのです。これらはまさに内部統制の要素です。契約書雛形は一度作成したらその内容どおりに顧客様と契約締結するもので、代表例は利用規約です。通常の契約書による契約締結であれば決裁権限に従って承認されたのちに契約締結の運びとなりますが、契約書雛形は一般的には雛形として定める際は会社の判断(=代表取締役社長等による承認決裁)が必要となります。じつは、会社が契約書雛形を持つことは、会社にとってコンプライアンスとガバナンスの意味で重要なものであるという位置付けです。これがわかると、契約書雛形に内部統制の要素が含まれていることもご理解いただけるのではないかと思います。
2つ目の側面として、契約書雛形に会社の方針が入っているということは、条文一つ一つに会社のコンプライアンス・ガバナンスに対する考え方等を含める必要があります。わかりやすい例としては、損害賠償条項です。皆さんの会社がサービス・商品等を販売する会社である場合、会社の契約書雛形の損害賠償条項には「直接かつ通常の損害を賠償する」と定めていることが多いと思います。会社がこの定めに決めた理由として単純に「リスク低減のため」だけであったら、皆さんはどのように感じますか?一方、顧客様へのアフターサービスを充実させたり、返品期間を契約書に明示したり、損害賠償の範囲を「直接かつ通常の損害を賠償する」よりも広めに設定したりするなど、会社にとって出来る限り負担する(=リスクテイク)ことを損害賠償条項に明確に示していたら、皆さんはどのように感じますか?顧客様の側から見たら、後者の方が数段高い信用・信頼を得ることができる契約内容だと思います。その他の条項も含めて、契約書の各条項には会社の方針や考え方が込められていると言っても過言ではありません。重箱の隅突きのような細かいお話しですが、その契約書雛形を受け取る顧客様側は、そこまで見ていると思った方が良いかもしれません。
今回の記事では、会社が契約書雛形を持つことの意義について皆さんと一緒に考えてみました。契約書雛形はインターネット上でたくさん紹介されています。私はその中身を比較するなどの勉強材料として拝見するのですが、個性的なものを見つけることができたりして楽しんでおります。ただし、そのままの内容で利用することはお勧めしません。必ずその内容を精査し、皆さんの会社の方針・考え方を踏まえて一つ一つの条文の内容を確認して修正するなど、会社に合った形なのかどうかを確認することをお勧めします。契約書雛形は皆さんの会社そのものです。ぜひご検討ください。
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