管理系部門がIPO準備でやることPart.15 -人事編③-
- 長嶋 邦英

- 2 日前
- 読了時間: 6分
「管理系部門がIPO準備でやること」について、今回も引き続き人事編です。

IPO準備期の採用で心掛けたいこと③
前々回の記事「管理系部門がIPO準備でやること Part.05 - 人事編 -」、前回の記事「Part.14 - 人事編② - 」では、IPO準備期の人事の役割やIPO準備期の採用で心掛けたいことについてご紹介しました。なぜここまでIPO準備期の会社での人事を取り上げているかというと、他の会社の人事の業務と比べて少々違う点があること。また、業務それぞれを個別にみても、例えば採用に関しては他の会社の採用活動とは明らかに違うかたちの活動を行うからです。これはIPO準備期の会社に在職された経験のある人事の皆さんであれば、共感していただけるのではないでしょうか。
IPO準備中の会社と他の会社の採用で明らかに違うのは、応募者数です。募集要項に「必須要件:上場会社での〜経験、またはIPO準備期の会社での〜経験」と明記されているものが増えました。このような状況は、かなり昔の会社では考えられない採用活動です。なぜなら、「IPO準備する」ということ自体が会社の機密情報だったためで、かなり昔はIPOする予定があるとか、IPO準備中であるということ自体を公にして採用活動を行う会社はほとんどありませんでした。それが最近では、そのことを公にして事業拡大している会社やそのこと自体を公にせずとも資金調達を数回繰り返していることをリリースすることで、IPOする予定である雰囲気を見せる会社が増えました。そうすると、その雰囲気に引き寄せられるかのように、応募者数は増加します。人事の皆さんは、その応募者すべてに対応しなければならず、業務量は他の会社と格段に違います。前回の記事でもご紹介しましたが、「会社がいま採用したい人材についてどのような目的・方向性を持っているのか?」や会社の社風・本来の「会社らしさ」という大切なポイントを見失い、単純に職務経験(業務内容、年数など)や保有資格を頼りにしてしまいがちです。もちろん、IPO準備は特殊な業務経験が必要な部分がありますので職務経験や保有資格等に頼る採用になるのも仕方ありませんが、そのIPOのためだけに採用するわけではありません。上場後を見据えた採用であることも大切です。ただし、人事皆さんがこのようなことをIPO準備期間中(1〜3年またはそれ以上)ずっと考えて業務遂行することは非常に大変で、心身共に疲労します。
もうひとつIPO準備中の会社と他の会社の採用で明らかに違うのは、会社の機密保持です。IPO準備期の会社であれば、採用面接の際に会社の機密情報を応募者にある程度開示することがあると思います(例:財務情報、事業計画、経営方針等)。これは会社が機密情報を開示することを予定していなくても、応募者の方からそのような質問が出てきます。質問されたら、答えないわけにはいかないでしょう。面接官によっては、その開示の程度がわからずにいろいろ答えてしまうこともあります。ここで人事の皆さんが採用で心掛けたいことは、面接マニュアルの作成と面接官への周知徹底です。先のとおり、通常に比べて応募者が多いのに、採用面接全部に人事の皆さんが同席することは困難です。ですから、面接で開示する会社の機密情報の限定化や面接のクオリティの統一化などをすることが必要だと考えます。なお、面接時に応募者に対して「面接で知り得た情報の機密保持を誓約させる」書面への署名を求めることもあるようですが、効果的なのかどうかはわかりません。
IPO準備期の労務管理で心掛けたいこと①
話は変わりますが、IPO準備期の労務管理で心掛けたいことも数多くあります。労務管理とは、会社・従業員の皆さんの労働条件や労働環境を整備し管理することが大きな目的であり、実際の業務は多岐にわたります。勤怠管理、給与計算、社会保険手続き、福利厚生制度などさまざまです。実際の業務での心掛けたいことについては次回以降の記事で触れるとして、今回は労務管理全般について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
さきほど労務管理の実際の業務は多岐にわたるとご紹介しましたが、それらの業務の内容を分解すると、2つの要素に分けられます。それは、「法令等の遵守」と「従業員の心身」の2つです。例えば勤怠管理では、労働時間や有給休暇等の管理は「法令等の遵守」と出勤状況や有給休暇取得状況などから個々の従業員の心身のケアを考える「従業員の心身」です。ですから人事の皆さんは普段から「法令等の遵守」の面では社内ルールを厳格に守りつつ、一方で労働時間の多い従業員について産業医と連携するなどして「従業員の心身」を守る業務を並行して行なっているのです。私も人事業務を経験しましたが、人事業務ほど難しく、「法令等の遵守」と「従業員の心身」の両立を考えるなどして心と頭をフル回転させる業務は無いのではないかと思っております。なぜなら、「法令等の遵守」を厳格に守ろうとすれば「従業員の心身」に寄り添うことはなかなか難しいですし、逆に「従業員の心身」に寄り添うあまり「法令等の遵守」が疎かになるケースがあります。このような意味で両立することの難しさを日々体験している人事の皆さんのご苦労に感服します。普段の労務管理が大変であるのに、さらにIPO準備期の会社においての労務管理はもっと大変です。さきほどご紹介した勤怠管理、給与計算、社会保険手続き、福利厚生制度などの制度設計(制度の向上・強化・厳格化)と法令等遵守の徹底が控えているからです。制度設計については、コンサルティング会社や社会保険労務士の先生方の力を借りるケースが多いと思います。先のとおり、労務管理は普段でも業務量が多いこともありますので、制度設計の部分を外部委託することをお勧めします。ですが、すべてを丸投げしてしまうと、会社の社風・本来の「会社らしさ」という大切なポイントを見失ってしまうような制度になりかねません。外部委託先と十分に協議を重ね、会社が主導権を持ったかたちで外部委託することが望ましいと考えます。こうしてみてみると、外部委託するからといって人事の皆さんのこの部分の業務量が減る、というわけではないことはご理解ください。
今回は、IPO準備期の採用と労務管理で心掛けたいことを皆さんと一緒に考えてみました。前回に引き続き、ここでも人事業務とはテクニックというよりは人事の皆さんの心からの誠意のある不断の努力によるものだと、改めて考えさせられます。また、もうすでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、IPO準備期の人事のキーワードは、会社の社風・本来の「会社らしさ」です。これを、会社がどのように守り、育み、成長させることができるのか、という点です。これはIPO準備期でなくても大切なキーワードなのですが、IPO準備期では顕著に現れます。IPO後の会社を見据えた採用を行いたいのであれば、ぜひこのキーワードを大切にしていただけたらと考えます。
次回も、もう少しIPO準備期の人事業務について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
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