J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.10 -評価範囲④-
- 長嶋 邦英

- 2月8日
- 読了時間: 8分
2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が発表されました。15年ぶりの改訂です。
今回は、評価範囲です。

評価範囲の大切さへの理解度がカギ①
2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)では、基本的要素など大きな改訂箇所があることはすでに皆さんもご存知のとおりです。2023年04月に改訂されていますのでもうすでに目新しい内容ではないと感じるかもしれませんが、現在であっても意外と改訂箇所に関する認識が緩い会社があると感じています。その感じている理由は、今回の記事のテーマである「評価範囲」について、J-SOX2023改訂版がなぜこの評価範囲についてかなり大きく変更することとなったのかの理由と目的についての理解が深まっていないことが原因ではないかと思ったからです。
TDNET(適時開示情報閲覧サービス)を閲覧していると、直近での内部統制の不備に関する情報としては不正行為に関することと、評価範囲に含めるべきものを含めていなかったことに起因する財務諸表の修正に関する開示が多いです。不正行為は仕方無いこともあるのですが(※あってはならないことなのですが)、評価範囲の選定の段階での誤りはその会社の内部統制はもとより財務諸表の数字自体にも大きく影響するものです。例えば直近事例で、「同社が所有権を有する棚卸資産(販売用不動産)については評価プロセスが整備・運用されておりましたが、同社が所有権を有さない造作物や保証金等のその他の資産については、評価プロセスが整備されておらず、その回収可能性が検討されておりませんでした。」(某社の開示資料より引用)とあります。評価プロセスを整備していないために棚卸資産の正しい数値が財務諸表に反映されていなかったようですが、棚卸資産に関する内部統制の評価はその勘定科目(直近事例では「棚卸資産」)だけに留まりません。取得時に遡ることもありますし、期中に売却があればそのプロセスにも及びます。つまり、評価範囲は単にその勘定科目、事業拠点、情報システム等だけに留まらないという理解を持っていただくことをお勧めします。J-SOXでは例示的に勘定科目は「3勘定」(売上高・売掛金・棚卸資産)、事業拠点は連結売上高の95%(いわゆる「95%ルール」)を示していますが、これが基準であるとは示していません。それに「その判断は、経営者において、必要に応じて監査人と協議して行われるべきものであり、特定の比率を機械的に適用すべきものではないことに留意する。」と示しておりますので、J-SOXは評価範囲に関し経営者と監査人(会計監査人)に対して重い責任を負わせています。先に挙げました直近事例のように、会社の主要事業部分のプロセスについて十分に気を付けなければならないハズだったのに内部統制の不備が発覚してしまうことは、その会社にとってはかなり深刻なダメージがあるでしょう。逆に、仮にその会社の主要事業部分以外のところで内部統制の不備が発覚したとしても、その不備は財務諸表の一部分への影響に過ぎないとは言えません。ですから私たち内部統制の評価者/責任者としては、評価時に検出した不適合/不備はもとより、その不適合/不備を検出したときは評価範囲自体が正しかったかどうかを振り返る必要があるかもしれないことを覚えておく必要があります。この場合、その期に急に評価範囲を変更することはできませんが、次の期には評価範囲の選定方法を変えるのか。内部監査も並行して実施するのかなどいろいろ方法がありますので、ぜひ慌てず、着実に正確な評価を実施することをお勧めします。
少し話が外れましたが、このような事態にならないようにするためにも、皆さんの会社の評価範囲を再検討することをお勧めします。よくあるのは、IPO準備期の会社や大きく成長著しい会社においては業績等に大きな変化があるため3勘定/95%ルールの部分について特に注意しなければならないと聞くのですが、じつはそのような会社はTDNETで開示する必要のあるような内部統制の不備は発生しにくいです。なぜなら、そのような会社の経営者と監査人は内部統制の不備が発生するリスクが常に念頭にあるので、そもそもリスクコントロールできていることが多いからです。逆にIPO準備期の会社や大きく成長著しい会社以外の会社、例えば安定成長している会社でいきなり内部統制の不備が発生することの方が多いです。毎期大きな変動が無いような財務諸表に見慣れてしまい、万一不正行為があったとしても少々の数値の変動であれば気付かないということはありませんか?棚卸資産では多くの商品・部材・物件等資産については評価額だけを気にしていると、不正行為や評価漏れが発生したとしても気付きにくいこともあります。皆さんはもうお気付きだと思いますが、評価範囲とは評価する広さ(範囲)だけを選定するものではありません。その広さをどの程度深掘りするのかまでを選定する必要があります。この点はJ-SOX2023改訂版にあるように、
(注2)「財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点」の判断については、例えば、売上高の一定比率といった基準を全ての連結子会社に適用するのではなく、各連結子会社の事業の内容等に応じ、異なる基準を適用する方法も考えられる。
つまり深さとは定量的なものだけでなく定性的なもの(引用では「会社の事業の内容等に応じ」)も含めて評価範囲を選定する際に留意しなければならないということです。皆さんの会社の事業にとって何を重視しているのか。その重視しているものの定量的情報と定性的情報をすべて把握し、十分に検討して事業計画を策定しているハズですので、内部統制の評価範囲もそれに連動する必要があります。そうでなければ皆さんの会社の内部統制は事業全体に対して適正であるとは言えないからです。ここで評価範囲の大切さへの理解度に大きな差が出てしまいます。ですから評価範囲の大切さへの理解度がカギであると言えます。
評価範囲の大切さへの理解度がカギ②
私は会社の内部統制のお手伝いをさせていただく中で、評価範囲の選定を行うためにその会社の事業計画を大切に確認します。定量的情報と定性的情報がバランスよく入っている充実した事業計画を元に評価範囲を選定すると、とても充実したものになります。これに対して社内外の定量的情報豊富なのに対し定性的情報が少ない事業計画を元に評価範囲を選定すると、「各プロセスの評価をどの程度深掘りするか」が判断しにくいことがあります。このような場合は、その会社の内部統制評価者/責任者は大変なご苦労があると思います。また、その深掘りの程度によっては例えば評価の際の証憑の選定・量等にも影響しますので、必然的に各部門の担当者や業務自体にも影響することが多いです。ですから、評価範囲の大切さへの理解度は経営者、内部統制の評価者/責任者だけではなく、以前の記事でも触れましたが、内部統制への理解、特にこの評価範囲の大切さへの理解度はすべての役員・従業員等にも深めていただく必要があると考えます。(★詳しくは「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.06 - 従業員にとっての内部統制 -」をご参照ください。)なぜなら、評価範囲は間違いなくすべての役員・従業員等の業務にも影響するからです。ですから評価範囲の大切さへの理解度がカギであるということを、経営者、内部統制の評価者/責任者だけではなく、すべての役員・従業員等にも理解していただく必要かあると考えます。
内部統制の評価は、内部統制の評価者/責任者だけが努力して実施するものではありません。各部門において業務に従事する従業員等の皆さんからの協力がなければ実施することはできません。そのため今回の記事では、会社の内部統制は、①評価範囲の大切さへの理解度がカギであること。そして②評価範囲の大切さへの理解度がカギであるということを、経営者、内部統制の評価者/責任者だけではなく、すべての役員・従業員等にも理解していただく必要かあることををご紹介しました。J-SOXの中でこの評価範囲に関する記述は全体のうち一部分です。しかし、その一部分は皆さんの会社の内部統制ひいては企業価値に大きく影響する内容です。私はこの部分をすべての役員・従業員等が理解している会社に出会ったことがありますが、その会社の経営管理体制と業務管理体制はとても素晴らしいものですし、企業価値が非常に高いです。このことから、内部統制が企業価値の向上に大きく影響・寄与するものであることを実感しています。
ぜひ皆さんの会社においても、評価範囲について十分検討すること/再検討することをお勧めします。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
IPO準備中企業の内部統制体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業の内部統制体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業の内部統制にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部統制責任者として、社内に1名選任をお願いします。)
この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。



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