"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.27 -子会社③-
- 長嶋 邦英

- 10月19日
- 読了時間: 9分
上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
前々回、前回の続き、今回も「子会社」を内部監査の目線でみていきます。

以前にも数回内部監査の目線で子会社をみてみましたが(※)、直近でも適時開示閲覧システム(TDnet)に子会社における内部統制上の重要な不備の事案が発生しましたので、今回改めて内部監査の目線で子会社をみてみたいと考えております。
※以前の記事は以下のものとなります。(子会社だけでなく事業拠点も含みます)
直近事例から - 概要説明 -
【事案の概要】
ある上場会社は連結子会社A(海外)において貿易取引上の問題の存在を認識し外部専門家による調査を行ったところ、税務上の問題が発生していることを認識した。当該上場会社はその調査結果を踏まえ、更なる社内調査・検討を行いこの問題への対処を進め、その結果有価証券報告書の提出期限延長申請を行い、その承認を得た。 また、これとは別に、別の子会社B(国内)の子会社C(孫会社・海外)において不適切な会計処理が行われている疑義があるとの報告があり、当該上場会社が調査を行ったところ、その調査の過程でさらに子会社B, C以外の子会社においてもそれらの経営陣の関与又は認識の下で、資産性にリスクのある資産に関して評価減の時期を恣意的に検討しているとも解釈しうるなど、不適切な会計処理が行われていたことを疑わせる資料が複数発見された。 当該上場会社はこれらについて会社から独立した第三者委員会による客観性のある調査を行う必要があると判断し、第三者委員会を設置した。
(出典:TDnetに掲載の某社リリースより要約)
子会社を内部監査する際の目線
私たち内部監査が子会社を監査する目線について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。子会社への内部監査を実施するにあたり、気を付けたい目線は次のとおりです。
グループ全体のガバナンス体制
子会社単体のガバナンス体制
子会社から親会社へのレポートライン
内部通報体制
など
今回はこの4点の目線のうち2の続き、3、4について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
【目線②子会社単体のガバナンス体制】のつづき
前回の記事では、監査手続等の準備段階(又は準備以前)に子会社単体のガバナンス体制がどのようになっているのかを把握し、親会社が考えているグループ全体のガバナンス体制のクオリティを満たしているのかどうか。親会社の子会社管理部門や子会社を擁する業務担当部門等はどのような見解なのか。内部監査としてはこれらの点をしっかり確認・監査する必要があることを説明しました。子会社といっても、新設分割、M&Aによる買収などによって完全(株式100%)、連結、持分法適用会社があり、それぞれ親会社による子会社管理のやり方はまったく違います。それに子会社としても、その親会社による子会社管理に完全に従うところもあれば、子会社独自の経営方針で事業展開するところもあります。親会社の内部監査としては、これら千差万別の子会社をほぼ一律の監査手続によって監査するのか、それぞれの状況に応じたかたちの監査手続によって監査するのか。監査手続の内容によって、出てくる監査結果はまったく違ってでてきます。この点の情報把握と分析を間違えてしまうと大変なことになります。これについては私たち内部監査だけで情報把握と分析を行うのではなく、子会社管理部門や子会社を擁する業務担当部門等と連携して情報把握と分析を行うことで監査対象である子会社の状況を見誤ることの無いように注意して監査したいところです。特にM&Aによって買収して間も無い子会社と海外子会社はこの点を忘れないでおくことをお勧めします。
海外子会社については、もうひとつ注意した点があります。それは各国によって組織上の役職とその権限の違いがあることです。この点については、もうすでにご存知の方もいらっしゃると思います。よく例に挙げられるのは、中国(中華人民共和国、以下「中国」といいます)の会社の役職(董事長、総経理)と日本の会社の役職とのギャップです。
中国の商業登記情報をみると董事長、総経理の順で表記されているので、「董事長=社長」、「総経理=会計・経理の総責任者(CFOの位置付け?)」とみてしまいそうになりますがまったく違います。董事長は董事会(=取締役会)の会長であり、董事会から経営の執行責任者として総経理が任命されます。つまり総経理は代表執行役(社長)という位置付けです。日本の委員会設置会社のような、経営の監督機能と業務執行機能を分離した組織という感じです。これを踏まえると、私たち内部監査が海外子会社を監査するときは、まず総経理とコンタクトを取って内部監査への協力要請と情報把握を行う必要があるということになります。この場合、総経理は現地の方であることが多いと思いますので、子会社自体の情報把握は元より、所在地の国・地域情報(文化・風習等を含む)も把握する必要があります。なぜなら、その子会社のガバナンス体制は規程・業務マニュアルだけでなくガバナンスに対する考え方や取り組み方についても理解することが必要だからです。そのため、よくあるケースとして比較的大きな上場会社の海外子会社で規程・業務マニュアルはよくできているにも関わらず、ガバナンス・コンプライアンスの面で不祥事・不正行為が発生することがあります。これは規程・業務マニュアル等に問題があるのではなく、規程・業務マニュアル等に関する親会社・子会社の考え方や方針が現地従業員に対して深く浸透していなかったことや子会社所在地国・地域の文化・風習の違いが原因として挙がることからもわかります。
親会社によるガバナンスの統一的な基準をもって海外子会社を管理するのか。現地の状況を踏まえてある程度の基準で海外子会社を管理するのか。とても悩ましいところであり、正解は無いと思います。しかし海外子会社を監査する私たち内部監査としては、親会社の海外子会社への経営方針がしっかり決まっていなければ監査することが難しいです。このこともありますので、内部監査と代表取締役社長・経営者層とのコミュニケーションはとても大切です。しっかりとコミュニケーションを取ることのできる環境にすることをお勧めします。
【目線③子会社から親会社へのレポートライン】
3つ目の目線は、内部監査だけでなく経営管理、リスク管理等様々な面で影響のある目線です。結論を先に言いますと、子会社から親会社へのレポートラインを複数・多面的に持つ必要があるということです。
これもよくある例をご紹介します。
内部統制・全社統制(CLC)は①統制環境、②リスクの評価、③統制活動、④情報と伝達、⑤モニタリング、⑥ITへの対応の6つの統制項目(評価項目)によって評価しますが、この中で親会社が子会社の状況を把握する/子会社が状況を親会社に報告する手段として、取締役会での子会社の事業(状況)報告、リスク管理・コンプライアンス委員会での子会社に関する報告、内部通報などを挙げて評価します。CLCの評価ではこれで足りるかもしれませんが、現実的でしょうか。これらの手段だけで、親会社として満足できる情報を得られることができているのでしょうか。取締役会での子会社の事業報告も、当の子会社の社長が出席して報告しているのではなく担当役員、担当部門を経由しての報告で済ませていませんか。手段(レポートライン)を限定的にするのは、あまりお勧めしかねます。以下にお勧めできるものをご紹介します。
<レポートラインを複数・多面化の例>
子会社管理部門が招集する子会社会議(子会社の社長、事業責任者の出席)
親会社の取締役会への子会社の社長、事業責任者の陪席(不定期)
親会社のリスク管理・コンプライアンス委員会への子会社の社長、事業責任者の出席(定期)
親会社の内部通報制度に子会社も入れる
子会社管理部門による子会社への状況調査(定期・内部監査とは別)
親会社の内部監査によるモニタリングと業務監査(定期)
など
上に挙げた例をすべて実施するのは難しいかもしれませんが、できるかぎり多くのレポートラインを実施することをお勧めします。お勧めする理由は、レポートラインを複数・多面化することで少しでも親会社として満足できる情報を得られることができるからです。情報は鮮度が命です。取締役会での子会社の事業報告は毎月1回だけですから、翌日・数日後には状況が大きく変化しているかもしれません。レポートラインを複数・多面化することで、少しでも鮮度の良い情報を親会社に集約することが可能です。そのレポートラインのひとつに私たち内部監査によるモニタリングと業務監査の定期実施があります。上の例で、他のものは報告ベースですが、子会社内部の実態をダイレクトに把握し生の声と実態を報告できるのは内部通報と内部監査でしょう。そのように考えますと、私たち内部監査の業務は子会社を持つ上場会社としては欠かせない働きであり重要な存在です。
今回は文字数の関係でここまでとさせていただきます。
次回は「子会社を内部監査する際の目線」項で挙げた4点の目線のうち3の続きと4について、特に3つ目の目線の子会社から親会社へのレポートラインにおける私たち内部監査に任せられている働きと存在について、もう少し皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
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この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。



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