2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が発表されました。15年ぶりの改訂です。
今回の記事では、評価範囲の選定に関するもののうち、事業拠点(子会社を含む)について考えてみます。この点も勘定科目と同様、皆さんの会社に大きな影響のあるポイントです。
事業拠点で気をつけること
2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)には、内部統制評価を担当する皆さんにとって非常に重要であるにも関わらず、比較的サラッとした説明をしている箇所があります。それは「事業拠点」です。例えば、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(以下「監査基準」といいます)の「4.財務報告に係る内部統制の報告」項・「(4) 評価の範囲、評価時点及び評価手続」には次のように記しています。こちらは改訂前J-SOXには無かった、加筆の箇所です。
4.財務報告に係る内部統制の報告 (略) (4) 評価の範囲、評価時点及び評価手続 ① 財務報告に係る内部統制の評価の範囲(範囲の決定方法及び根拠を含む。) 特に、以下の事項について、決定の判断事由を含めて記載することが適切である。 イ.重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合 ロ.評価対象とする業務プロセスの識別において企業の事業目的に大きく関わるものとして選定した勘定科目 ハ.個別に評価対象に追加した事業拠点及び業務プロセス
(出典:監査基準22ページ)
こちらは、前回の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.07 - 評価範囲①・勘定科目 - 」などでご紹介していますが、US-SOXではこの「評価範囲」という考え方が存在せず全勘定科目、全子会社・全事業拠点が評価対象であることが前提になっており、J-SOXもそれにならう形で段階的に改訂するようです。まずは、そのことを踏まえてこの記事をご覧ください。
上の引用では、私たちJ-SOXに慣れた皆さんからみたら「評価範囲に追加するための手続きについて記載する必要がある」と理解できそうですが、さきほどご紹介したとおり、今回の改訂は今後US-SOXにならうことを想定していると考えたとき、「評価範囲に追加する」ことよりも「評価範囲から除外する」ための理由を考えた方が良いかもしれません。その理由は、「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」でも3勘定を含む定量基準については段階的な削除を予定しており、事業拠点についてもいわゆる3分の2ルールが今後削除されることも考えられるからです。
これらを踏まえて、事業拠点の評価範囲を選定するときに気をつけることは、次の2点です。
事業拠点の評価範囲を選定する際には売上高だけでなく、その会社の事業内容等を勘案してその他の勘定科目も考慮に入れて選定する。(例:人件費に相当する勘定科目など)
事業拠点の評価範囲は、全事業拠点を対象とすることを前提として選定し、もし評価対象としない事業拠点がある場合は「評価範囲から除外する」ための理由を考える。
2023J-SOX改訂版の適用は2024年04月からですが、すぐにUS-SOXのようなルールになるわけではありません。また、今後評価範囲が広がるからといって、改訂前の評価範囲の選定の基本である3勘定等の例示が無効になるわけではありません。内部統制の4つの目的にある「報告の信頼性」は、J-SOXではあくまで「財務報告の信頼性の確保」することとしていますので、財務報告の中でも売上高、売掛金及び棚卸資産の3勘定が外れることはありません。そのため、勘定科目についてはこの3勘定を基本としつつも全勘定科目に目を配り、今回の事業拠点については3分の2ルールを適用しながらCLC(全社統制)とFCRPについては全子会社・全事業拠点を評価することを検討することをお勧めします。
事業拠点の扱いに注意してください
皆さんの会社では、各主要都市等に支店、営業所等を設置していると思います。それぞれの事業拠点について、どのような役割を分担していますか?例えばその事業拠点を支店として設置している場合、
支店を組織上独立した部門として設置しているケース(例:大阪支店は「大阪営業本部」として設置している。)
組織上の事業部門の中の部署として、支店にその部署を置いているケース(例:営業本部の営業出先機関(部署)として営業第*部として大阪支店に置いている。)
上の2点は、それぞれ言葉の表現の上で微妙ですが、これを事業計画の上で見るとご理解いただけるかと思います。
支店を組織上独立した部門として設置しているケースでは、事業計画ではその大阪支店単体で売上高の目標数値が挙げられていることが多いです。また、組織上の事業部門の中の部署として、支店にその部署を置いているケースでは、その部署(支店)単体ではなくその部署が所属している事業部門が売上高の目標数値を挙げていることが多いです。この事業計画の上でどのような販売(売上)計画を挙げているかによって、内部統制の評価範囲の選定に影響します。
このように見ると、評価範囲の選定は会社の組織編成をどのようにするかによって、対象となる/対象とならない事業拠点にどのような違いがあるかご理解いただけるかと思います。ただし、ここでは「評価範囲の対象外となるように組織編成を考える」ことをお勧めしているわけではありませんので、この点に注意したうえで実施基準に従った評価範囲の選定をお願いします。
選定の際の指標は複雑に・・・
事業拠点の扱いについては、実施基準の「Ⅱ. 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に加筆されている注意書きがあります。
Ⅱ. 財務報告に係る内部統制の評価及び報告 2.財務報告に係る内部統制の評価とその範囲 〔業務プロセスに係る評価の範囲の決定〕 ①重要な事業拠点の選定 企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定する。 (注1)事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。事業拠点を選定する際には、財務報告に対する金額的及び質的影響並びにその発生可能性を考慮する。事業拠点を選定する指標として、基本的には、売上高が用いられるが、企業の置かれた環境や事業の特性によって、総資産、税引前利益等の異なる指標や追加的な指標を用いることがある。銀行等の場合には、経常収益という指標を用いることが考えられる。 この場合、本社を含む各事業拠点におけるこれらの指標の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とすることが考えられる。 (以下、省略)
(出典:実施基準73ページ)
今回の2023年のJ-SOX改訂では、例えば内部統制の4つの目的のうち「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」に変更されたなど大きな改訂点が目に付くと思いますが、それ以上に最も重要な改訂点は、上の引用部分のような " 注意書き " の改訂点です。内部統制の評価を行う皆さんにとって、この注意書きの改訂点こそが、評価を行うにあたっての重要なカギになります。実施基準の注意書きが改定されている箇所が広範囲にありますので、ぜひ各箇所を十分に注意して確認してください。
上の引用部分からみていきますと、加筆されている点は次の2点です。
事業拠点を選定する際には、財務報告に対する金額的及び質的影響並びにその発生可能性を考慮する。
本社を含む各事業拠点におけるこれらの指標の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とすることが考えられる。
1については、前回の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.07 - 評価範囲①・勘定科目 - 」にあります勘定科目に関連しますが、事業拠点も同様に「財務報告に対する金額的及び質的影響並びにその発生可能性を考慮する」と示しています。前述の項では営業関連の事業拠点を例に挙げましたが、この改訂点の1では売上高だけではないということを意味しています。例えば開発関連、カスタマーサポート関連の事業拠点であれば研究開発費や人件費(販管)等が主な勘定科目になりますが、その会社にとって財務報告や事業計画上金額的及び質的影響が大きい場合は、これらの事業拠点も評価対象とするかの考慮をすることと示しています。
2については、これまで連結ベースの売上高の高い拠点から合算していましたが、これをさきほどの1に関連して、売上高以外の勘定科目にについても財務報告に対する金額的及び質的影響並びにその発生可能性の高い高い拠点から合算して、これらの事業拠点の評価範囲を選定するかの考慮をすることと示しています。J-SOXはこれまで連結ベースの売上高を指標として例示していましたが、この点が先のとおり大きく改訂されています。注意書きなので見逃しやすいポイントですが、最大限の注意が必要です。
前回と今回の記事では、2023J-SOX改訂で内部統制の評価範囲の選定がどのように改訂されたのかを見ていきました。勘定科目も事業拠点も、実施基準の注意書きにご注意ください。それら注意書きを確認し、十分理解したうえで皆さんの会社にあてはめて評価範囲を選定すること。この注意書きこそが、今回の2023J-SOX改訂の最も大きな改訂点であり、最も重要な改訂点です。
2024年04月から適用開始になりますので、準備する期間は残り3か月となります。短い期間だからといって慌てて再構築する必要はありません。内部統制はPDCAサイクルで常に向上していくことが重要です。ただし、常に向上する体制と仕組みはいま整えておく必要がありますので、このことを踏まえて内部管理体制と内部統制体制を整えることをお勧めします。
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この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。
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