"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.26 -子会社②-
- 長嶋 邦英

- 10月12日
- 読了時間: 8分
上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
前回の続き、今回も「子会社」を内部監査の目線でみていきます。

以前にも数回内部監査の目線で子会社をみてみましたが(※)、直近でも適時開示閲覧システム(TDnet)に子会社における内部統制上の重要な不備の事案が発生しましたので、今回改めて内部監査の目線で子会社をみてみたいと考えております。
皆さんと一緒に考えてみたいポイントは以下の3点です。
親会社にとっての子会社管理の変化
子会社を内部監査する際の目線
前回の記事で1つ目を取り上げましたが、今回は1つ目の補足と2つ目を取り上げます。
※以前の記事は以下のものとなります。(子会社だけでなく事業拠点も含みます)
直近事例から - 概要説明 -
【事案の概要】
ある上場会社は連結子会社A(海外)において貿易取引上の問題の存在を認識し外部専門家による調査を行ったところ、税務上の問題が発生していることを認識した。当該上場会社はその調査結果を踏まえ、更なる社内調査・検討を行いこの問題への対処を進め、その結果有価証券報告書の提出期限延長申請を行い、その承認を得た。 また、これとは別に、別の子会社B(国内)の子会社C(孫会社・海外)において不適切な会計処理が行われている疑義があるとの報告があり、当該上場会社が調査を行ったところ、その調査の過程でさらに子会社B, C以外の子会社においてもそれらの経営陣の関与又は認識の下で、資産性にリスクのある資産に関して評価減の時期を恣意的に検討しているとも解釈しうるなど、不適切な会計処理が行われていたことを疑わせる資料が複数発見された。 当該上場会社はこれらについて会社から独立した第三者委員会による客観性のある調査を行う必要があると判断し、第三者委員会を設置した。
(出典:TDnetに掲載の某社リリースより要約)
親会社にとっての子会社管理の変化③
前回の記事「"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.25 -子会社-」では、親会社にとっての子会社管理の方法として「トリアージ対応」のおすすめとその判断基準についてご紹介しました。いくつかお問合せをいただきましたので、若干ですが補足いたします。
「トリアージ対応」については、親会社側の中でも例えば経営、内部監査、実務を行う部門それぞれの目線が違います。そして経営の目線でも合理的、効率的のいわゆる事業推進的な目線とリスクコントロールの目線などがありますが、これらのトリアージ対応の方法と判断基準を統一する必要はないと考えます。そもそも事業推進的な目線とリスクコントロールの目線ではそれぞれが目的とする先が違いますし、判断基準は経営方針等の影響等でレベル感が変わりますので、必然的に判断基準の観点や設定する数値が違うこととなります。ですから、判断基準を合わせよう、統一しようとしても難しいと思います。しかし、他の会社の方法や判断基準をそのまま(受け売りで)自社で採用するというのはお勧めできません。自社内で判断基準の観点や設定する数値等の内容を十分検討することをお勧めします。
前回の記事はこのような思いでご紹介しました。
子会社を内部監査する際の目線
私たち内部監査が子会社を監査する目線について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。子会社への内部監査を実施するにあたり、気を付けたい目線は次のとおりです。
グループ全体のガバナンス体制
子会社単体のガバナンス体制
子会社から親会社へのレポートライン
内部通報体制
など
この4点以外にも気を付けたい点はたくさん挙げられると思いますが、今回(次回も続きますが)取り上げるのは上の4点です。
【目線①グループ全体のガバナンス体制】
1つ目の目線は、内部監査を実施する際というよりは実施前の監査手続を作成する際に確認しておくべき内容です。例えば、グループ全体のガバナンス体制は、子会社の数の分だけいろいろな形になっていると思います。具体的には、子会社ごとに業種・会社の規模等が異なれば組織の構成が違いますし、その組織を維持するための組織体制(管理職等の位置付け)も異なります。そうなると、いくら親会社において統一的な基準をもってグループ全体を管理しているといっても無理が生じます。ですから「ある程度の基準」でグループ全体を管理せざるを得ません。この「ある程度の基準」というのが弱点となります。親会社としてはグループ会社全体で親会社のクオリティを保つために統一的な基準を設けるのですが、この基準が子会社ごとの業種・会社の規模等の差異のために「ある程度」に留めることとなるのは前述のとおりです。しかし、この親会社が「ある程度の基準」に留めた意図を子会社が正しく理解しているのか。もしかしたら誤った理解又は曲解しているとしたらどうでしょうか。もし後者の場合(誤った理解又は曲解)は、前項で挙げた直近事例にある「経営陣の関与又は認識の下で、(中略)恣意的に検討しているとも解釈しうるなど、不適切な会計処理が行われていた」という事態になってしまいます。ただし、「誤った理解又は曲解」している状態は決して悪いことではありません。以前の記事「内部監査の在り方Part. 13 -性悪説と性善説-」で、「性悪説」とは本来「人間の本性は悪であり、たゆみない努力・修養によって善の状態に達することができるとする説(荀子が唱えた説)」とあります。当初誤った理解又は曲解をしていたとしても、正しく理解するよう説明することで正しい状態にすることはいくらでも可能です。
話が逸れましたが、私たち内部監査としては、まずは親会社によるグループ全体のガバナンス体制の実態を把握し、親会社の統一的な基準が子会社においてどのように適用され、どの部分で「ある程度」に留められているのか等の実態を把握・分析する必要があります。ご注意いただきたいのは、これはあくまで「内部監査を実施する際というよりは実施前の監査手続を作成する際に確認しておくべき内容」のために行うものであるということです。適宜、適切な程度の確認をお勧めします。
【目線②子会社単体のガバナンス体制】
内部監査が子会社を監査する目線で多くの場合見落としがちなのが、この「子会社単体のガバナンス体制」の把握です。
見落とすことが多い例として、
会社の規模が比較的大きくはない子会社
海外子会社
(管理系部門以外の)業務担当部門直下の子会社
M&A直後の子会社
など
このような子会社へ内部監査を実施する際は、特に注意して監査手続等の準備段階(又は準備以前)に子会社単体のガバナンス体制がどのようになっているのかを把握することをお勧めします。なぜなら、上に挙げた子会社は、それぞれ状況は違いますが実態として親会社の統一的な基準とは別の基準(子会社独自のルール、業務マニュアルなど)が存在する可能性があるからです。例えば、比較的小規模の子会社は組織自体が小規模で管理職階層(部長、課長等)が少ない/無いかもしれず、親会社が考えているようなガバナンス体制になっていないかもしれません。業務の確認・承認が管理職ではない従業員同士相互に行なっている可能性もあります。業務プロセスとしては間違っていませんが、親会社が考えているグループ全体のガバナンス体制のクオリティを満たしているのかどうか。親会社の子会社管理部門や子会社を擁する業務担当部門等はどのような見解なのか。内部監査としてはこれらの点をしっかり確認・監査する必要があると考えます。「ある程度の基準」に留めて子会社を管理すること自体は決して間違っていませんが、「ある程度の基準」以外は子会社の完全な自由裁量・・・というわけにはいきません。子会社による裁量は認めつつも、どこかに歯止めをかける/手綱を締めるコントロールが必要です。このコントロールが効いているのかどうかを監査対象となる子会社だけでなくグループ全体を俯瞰しながら監査対象の子会社を見定めていくことが大切です。しかも、これができるのは内部監査の皆さんです。子会社管理部門や子会社を擁する業務担当部門等はかなり密接に実務に直結しているため、このキーコントロールの効果を見定めるのは難しいかもしれません。
今回は文字数の関係でここまでとさせていただきます。次回は「子会社を内部監査する際の目線」項で挙げた4点の目線のうち2の続き、3、4について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
当社が提供するサービスとして
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