内部監査の在り方Part. 13 -性悪説と性善説-
- 長嶋 邦英
- 8月17日
- 読了時間: 7分
今回は少々趣が変わるのですが、私たちが内部監査に携わるにあたっての考え方について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

このテーマを取り上げる経緯
私がこのNoteで内部監査、内部統制、経営管理等に関することをご紹介し始めたのは、いまから約2年半前の2023年02月です。これまでいろいろな側面、観点でご紹介しているのですが、今回はこれまでの記事内容とは少々異なり、内部監査に携わる、又は実際に内部監査を実施するにあたり、どのように考え、どのように向き合い、どのように内部監査を実施するのか。それを抽象論的になるのですが「性善説と性悪説」という見方で皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
皆さんは性悪説と性善説という見方で、内部監査について考えたことがあまり無いかもしれません。業務監査を実施するとき、例えば業務の誤りを見つけることに重点を置いたり、業務の実態について詳細に調べるなど事前準備(予備調査、事前ヒアリング等)を丹念に行ったうえで本監査を実施したり、又は業務全体を広く把握してある程度の事前準備を行なって本監査を実施する。このような監査への流れを見たうえで私はその内部監査責任者・担当者に「どのような姿勢・考え方で内部監査に向き合っているのか?」とお聞きすると、あらかじめ想定しているリスクが実際にインシデント・アクシデントとして発生していないかを確認する「リスク観点」での内部監査を行うことを考えていることが多かったです。
そこでさらに私は、そのあらかじめ想定しているリスクはどのような分析・検討・評価等を行なっているのか?とお聞きすると、リスク管理委員会等で十分な時間を掛けたうえで行なっていたり、リスク分析・評価等は外部委託しそこから得た資料を社内(取締役会・経営会議等)で検討したり、又は極端なのですが内部監査部門内のみでリスク分析・検討・評価等を行なっている、などの回答をいただき、内部監査を実施するにあたってのリスク観点の指標自体がかなりバラバラだったことがわかりました。
もちろん、いろいろあってよいと思いますし、間違ったものはひとつもありません。ですが、ここで私は少し引っ掛かることがあります。それは、リスク観点での内部監査ときの指標はそもそもの「内部監査の目的」を達成するために役立つものなのか?その指標はしっかりと定めておく必要は無いのか?です。
性善説と性悪説
今回の記事では、性悪説と性善説を次のような意味で取り上げます。
性悪説:人間の本性は悪であり、たゆみない努力・修養によって善の状態に達することができるとする説。荀子が唱えた説。
性善説:人間にはもともと善の端緒がそなわっており、それを発展させれば徳性にまで達することができるとする説。孟子が唱えた説。
(出典:デジタル大辞泉・小学館)
1.内部監査の必要 組織体が、その経営目標を効果的に達成し、かつ存続するためには、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールを確立し、選択した方針に沿って、これらを効率的に推進し、組織体に所属する人々の規律保持と士気の高揚を促すとともに、社会的な信頼性を確保することが望まれる。内部監査は、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価し、改善に貢献する。経営環境の変化に迅速に適応するように、必要に応じて、組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援する。
皆さんもご存知のとおり、内部監査の業務は以下の2つです。
保証(アシュアランス)業務
助言(アドバイザリー)業務
このうち、さきほどのリスク観点での内部監査はアシュアランス業務に重点をおくこととなりますが、実際に内部監査を準備するにあたって監査手続の内容はどのようになるでしょうか。おそらくはリスクが実際にインシデント・アクシデントとして発生していないかを確認することに集中することとなります。ちなみに私の場合は、社内の業務が正しく行われていることを前提に、監査対象としている部門・部署、業務が正しく行われていることを証明することを念頭にして内部監査を実施します。前者は「人(従業員等)は悪いことをする」前提で監査対象に向き合う、いわば性悪説的な見方であるのに対し、後者は「人(従業員等)は、会社においては良いことをする」ために会社にいる前提で監査対象に向き合う、いわば性善説的な見方です。性悪説的な見方で内部監査を実施することも、性善説的な見方で内部監査を実施することも、どちらが良い/悪いということはありません。ただし、私たちの内部監査が内部監査基準にある「内部監査の目的」を達成するには、どちらの見方で内部監査を実施するのが良いのかを十分に考えて理解する必要があるのではないかと考えます。
内部監査は内部監査基準にあるとおり、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価し、改善に貢献することと、経営環境の変化に迅速に適応するように、必要に応じて、組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援することが求められており、これが私たち内部監査の目的です。私の解釈ですが、もし性悪説の見方で内部監査を行うと保証業務としては満点ですが、助言業務に話が及ぶかどうかは難しいと思います。一方、性善説の見方で内部監査を行うと、保証業務と助言業務それぞれをバランスよく行うことができるのではないかと考えております。それに監査対象となる部門・部署及び業務の担当者の立場から見ても、もし自分たちを性悪説の見方で内部監査されているとしたら、あまり気分の良いものではないでしょう。私たち内部監査は決して気分で業務に携わるようなことはありませんが、監査対象となる部門・部署及び業務の担当者の立場の皆さんの気分の害するようなことは避けたいところです。
最近の不祥事と内部監査
適時開示閲覧サービス(TDnet)では最近不祥事関連のリリースが多くなっております。(*「"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.21 -監査/評価の範囲-」、「Part.22 -監査/評価の範囲②-」をご参照ください)
その中にはマスコミ・新聞報道で大きく取り上げられ、日本の株式上場(IPO)の在り方に大きく影響する事案もありました。その事案の会社では第三者委員会による調査報告が出されていますが、私たちが注目したいのは「内部監査はどのように取り上げられているのか」です。するといつものように、「適切な内部監査が到底望めるものでない」、「内部監査部門は機能不全に陥っており、およそ実効的な内部監査は望めないものであった」など、散々な内容でした。この事案の会社の内部監査の皆さんは、相当なご苦労と苦悩があったと私は理解しています。まして内部監査の機能不全を良しとするような人は、この事案の会社の内部監査の皆さんを含め私たち内部監査に携わる皆さんの中には一人もいないでしょう。しかし、いざ不祥事が発生すると、とても悔しいのですが必ず槍玉に挙げられるのは内部監査です。
ただし、このようなことに恐れることで性悪説的な見方による内部監査のみを行うのはモグラ叩きですし、不正行為等を血眼になって探す姿は他の従業員等の皆さんの目にはどのように映るでしょうか。ここはぜひ性善説的な見方による内部監査を行うことで、従業員等の皆さんの「善の端緒がそなわっている」ことを信じ、それを発展させ徳性にまで達することができる内部監査を行うことをお勧めします。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)
この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。
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