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"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.24 -企業価値②-

  • 執筆者の写真: 長嶋 邦英
    長嶋 邦英
  • 9月7日
  • 読了時間: 8分

 上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。

 前回に引き続き、今回も「企業価値」を内部監査の目線でみていきます。


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 前回の記事「"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.23 -企業価値-」では、以前の記事「Part.21 -監査/評価の範囲-」、「Part.22 -監査/評価の範囲②-」で取り上げました直近事例(具体的には財務報告の虚偽記載等)を見ながら、企業価値」について皆さんと一緒に考えてみました。

 今回も引き続き企業価値をテーマに挙げますが、皆さんと一緒に考えてみたポイントは以下の3点です。

  • 企業価値とは?

  • 企業価値を上げるもの/下げるもの

  • 内部監査の役割は「企業価値を守ること」?

 上の3点のうち、今回は3つ目を取り上げます。




直近事例から - 概要説明 -


【事案の概要】

 ある上場会社は、証券取引等監視委員会による調査を受けており、これを端緒として同社は第三者委員会を発足して調査・確認を進めたところ、同社が販売するサービスの売上高が過大に計上されている可能性を認識した。また調査を進めると、過大計上が売上高だけにとどまらず広告宣伝費、研究開発費にも及んでいることが発覚した。なお同社は、新規上場申請時に申請書類の財務諸表などに虚偽の情報を記載し、上場承認を得ていたことも認めている。  この事案は大きな波紋を呼びマスコミ報道される一方、東京証券取引所は同社を上場廃止にすると決定した。

(出典:TDnetに掲載の某社リリースおよびマスコミ報道記事より要約)




内部監査の役割は「企業価値を守ること」?

 前回の記事に引き続き、今回の記事でも「企業価値」の解釈を「企業価値と株主利益について (討議用資料)」(経済産業省産業組織課2023年04月17日)に記述されている内容を引用します。

 企業価値とは、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和を表すものであり、定量的な概念。事業活動における従業員や取引先による付加価値の提供など、ステークホルダーが貢献することにより将来のキャッシュフローが増加する関係にあり、定量的な企業価値にステークホルダーの貢献は反映されている。

 前回の記事で、企業価値は「定量」(数字で表されるもの)と「定性」(数字で表すことができないもの)で表すことができ、私たち内部監査の監査/評価の範囲は、定量と定性の両方であることをご紹介しました。内部監査の実施又は内部統制の評価実施では「定量」に目が行きがち、又は「定量」が中心になりがちです。でも、これは仕方がありません。なぜなら定量の方が監査しやすいですし、万一その監査において不正行為を検出したときはそれを不正行為であることの確認と証明がしやすいからです。一方定性の方は、監査しにくい面があることは否めません。例えば内部監査を実施したときに談合等の不正な取引を検出した場合にはもちろんコンプライアンスの観点で不正行為であることは明白ですが、ひと昔前はある業界においてはそのような取引が商慣習として行われていたことがあります。つまり、業界等の商習慣等によって、これに関わっている方々としては「悪いことはしていない」と理解されている場合があるかもしれないと考えられるからで、まったく違う業界から転職等で入社してすぐの内部監査の方々にとっては指摘しづらいことがあるかもしれません。

 なぜこの例を挙げたかというと、以前東日本大震災の復旧工事での談合事案(違反事業者20社、課徴金納付命令対象事業者11社/参照:公正取引員会ウェブサイト)があり、このときの各社の調査報告に示されたことは「内部監査の監査不徹底」や「監査が甘かった」などの記述があり、私はとても悔しい思いをしたからです。現在ではそのような取引の形がなくなっていると思いますが、商習慣とは本当に恐ろしいもので「そういうものだ」、「それが許されているのだ」と教えられ思い込んでしまうと、コンプライアンスという基本的なことが抜けてしまいます。当時の内部監査の方はしっかりとした監査を実施していた/実施したいという考えがあったと思いますが、いろいろな商習慣に惑わされてしまい指摘しづらく、又はいろいろな圧力があったために監査報告に表すことができなかったのかもしれません。この点がさきほどの定性についての監査のしにくさといえます。


 話は戻りますが、私たち内部監査は監査報告に表すことによって実績を残すことができます。ただし、その監査報告に基づいて被監査部門をはじめ全社に対して業務改善等の「アドバイスする」ことは可能ですが「指示」することと業務改善等を「実際に行う」はできません。そのような面を捉えて内部監査は「企業価値を守る」役割であると思われがちです。

 しかしこれからは、内部監査によって企業価値を貶める事案はもとより、企業価値を高める可能性のある社内の状況や業務遂行状況など、職場環境等会社にとって良いものを収集して監査報告にまとめて報告することができる内部監査の役割・業務が求められてくるだろうと考えます。なぜなら、もしそうでなければ、内部監査の業務自体は以前ご紹介したGRCツールの導入やAIの進化・高度化に取って代わられて無くなる可能性があるかもしれないからです。ですが、内部監査の業務は「人間にしかできない業務」です。特に企業価値を上げる要素を見つけ出し、これを報告して全社にとって有益なものに高め、企業価値を上げるお手伝いをすることは、内部監査の業務として最も重要な役割・業務ではないかと考えます。人が会社を経営し、人が業務に従事しているのですから、企業価値を上げるお手伝いをすることができるのは人である内部監査です。

 見出しに「内部監査の役割は「企業価値を守ること」?」としましたが、このクエスチョンマークの意図は内部監査の役割は「企業価値を守ること」だけでなく「企業価値を上げること」もあることをご紹介したかったからです。



企業価値の基準をどこに置くか?

 2回にわたって内部監査と企業価値について皆さんと一緒に考えてみましたが、ひとつ最後に残していたものがあります。それは、内部監査は企業価値の基準をどこに置くか?です。

 ここまで紹介しておいていまさら・・・と思われるかもしれませんが、じつはこれはとても重要なポイントです。なぜなら、企業価値への考え方は会社、経営者層、従業員の皆さん、従業員の中でも管理職層の皆さん、もちろん内部監査の皆さん、それぞれ違うからです。皆さんが担う役割や働きが違うのですから、企業価値への考え方が違うことは当然です。しかしながら、それぞれ違っているからといってすべてがバラバラに役割や働きをしていては、企業価値を上げるどころではなくひとつの会社に集まる意味さえも無くなってしまいます。ですから会社には、そのバラバラをうまくまとめるために「事業計画」や「中期計画」を策定して会社が進む方向性を示しています。従業員の皆さん全員がこの事業計画や中期計画の内容すべてを把握し理解していたら素晴らしい/最高ですが、少なくとも内部監査の皆さんは把握し理解する必要があります。これは、私たち内部監査は世間のコンプライアンス、ガバナンスに関する情報等内部監査に必要な情報と、会社の事業計画や中期計画に示されている将来の収益性・成長性、経営戦略等を把握し十分に理解することによって企業価値の基準を定めていただきたいからです。そして、なぜ内部監査なりの企業価値の基準を定めなければならないのかというと、その定めた内容は内部監査計画に反映するものだからです。企業価値の基準は何かの拍子にコロコロ変わってしまっては困ります。ですから形として内部監査計画に盛り込むことをお勧めします。(※以前の記事「内部監査に向き合う Part.03 - 内部監査計画策定① -」をご参照ください。)これによって内部監査計画を承認する代表取締役をはじめ取締役会や監査役会の経営層としては安心して内部監査の業務を任せることができます。従業員としても内部監査が考えている企業価値の基準が定まっていることによって、内部監査を受けることへの不安や懸念、不満はなくなります。内部監査は全方位に向かう業務を遂行しますので、そのためにも会社の事業計画や中期計画に基づく内部監査なりの企業価値の基準を定めことをお勧めします。



 この機会に、ぜひ内部監査・内部統制を「企業価値を上げる」ためのものとして捉えて推し進めていく経営に方向転換することをお勧めします。






当社が提供するサービスとして


当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、


  1. IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)


 この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。



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