"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.23 -企業価値-
- 長嶋 邦英
- 1 日前
- 読了時間: 7分
上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
今回は「企業価値」を内部監査の目線でみていきます。

以前の記事「"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.21 -監査/評価の範囲-」、「Part.22 -監査/評価の範囲②-」では直近事例(具体的には財務報告の虚偽記載等)を挙げて、私たち内部監査の監査/評価の範囲がとても重要であることを皆さんと一緒に考えてみました。
今回の記事では、同じ直近事例で視点を変えて「企業価値」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
以下は今回取り上げるポイントです。
企業価値とは?
企業価値を上げるもの/下げるもの
内部監査の役割は「企業価値を守ること」
直近事例から - 概要説明 -
【事案の概要】
ある上場会社は、証券取引等監視委員会による調査を受けており、これを端緒として同社は第三者委員会を発足して調査・確認を進めたところ、同社が販売するサービスの売上高が過大に計上されている可能性を認識した。また調査を進めると、過大計上が売上高だけにとどまらず広告宣伝費、研究開発費にも及んでいることが発覚した。なお同社は、新規上場申請時に申請書類の財務諸表などに虚偽の情報を記載し、上場承認を得ていたことも認めている。 この事案は大きな波紋を呼びマスコミ報道される一方、東京証券取引所は同社を上場廃止にすると決定した。
(出典:TDnetに掲載の某社リリースおよびマスコミ報道記事より要約)
企業価値とは?
「企業価値」とは何でしょうか?インターネットで検索するといろいろな解釈が出てきます。どれも正しい理解だと思いますが、今回の記事では「企業価値」を以下の解釈で使うこととします。この解釈は「企業価値と株主利益について (討議用資料)」(経済産業省産業組織課2023年04月17日)に記述されている内容を引用します。
企業価値とは、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和を表すものであり、定量的な概念。事業活動における従業員や取引先による付加価値の提供など、ステークホルダーが貢献することにより将来のキャッシュフローが増加する関係にあり、定量的な企業価値にステークホルダーの貢献は反映されている。
(引用:「企業価値と株主利益について (討議用資料)」1ページ)
企業価値は「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和を表すもの」ですので、その会社の過去から現在に至るまでに積み上げてきた会社全体の価値だけでなく、将来得られるであろう価値についても含まれます。企業価値は多くの場合「定量」(数字で表されるもの)で表されますが、ぜひ「定性」(数字で表すことができないもの)に注目していただきたいです。なぜなら、私たち内部監査の監査/評価の範囲は、定量と定性の両方だからです。このことは内部監査の皆さんにとっては釈迦に説法であることは承知しているのですが、いざ内部監査の実施又は内部統制の評価実施では「定量が基準」になってしまうことが多く、そのため監査/評価の範囲から抜け漏れしてしまい、その結果のちに重大な不正行為を見逃してしまうことが多いです。ただし、これは「重箱の隅突き」の内部監査をお勧めしているわけではありません。定量と定性の両方を考え、このバランスをとったうえで内部監査の実施及び内部統制の評価実施をお勧めするものです。このことが、ひいては企業価値を守る内部監査につながります。
企業価値を上げるもの/下げるもの
企業価値を上げるもの又は下げるものと言うと、何を思いますか?
「下げるもの」というと売上高・利益の減少などの定量的なものや今回のような不祥事など定性的なものがすぐに思いつくでしょう。しかし「上げるもの」というと、皆さんは売上高・利益の増加(増収増益)の定量的なものが真っ先に思いつくものの、定性的なものについてはすぐには思いつかないかもしれません。皆さんもご存知のとおり有価証券報告書(以下「有報」といいます)では定性的情報の記述が必須になっておりますので、会社としては定量的情報(売上高等)と同じくらい定性的情報も重要となっております。ちなみにプライム市場の上場会社は、サステナビリティ準備委員会(SSBJ)のSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報の定性的情報を開示するよう求められています。(参考:サステナビリティ準備委員会(SSBJ)サイト「サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表(2025年03月05日)」)こちらはプライム市場上場会社以外の会社には求められていないものの、サスティナビリティ、SDG's(Sustainable Development Goals)、CSR(Corporate Social Responsibility /企業としての社会的責任)への取組みやその活動内容を対外的に開示することは企業価値を上げる要素と考えられています。
少々大袈裟な話となりましたが、もう少し身近に企業価値を上げるものを考えてみましょう。
すぐに思いつくのは、株主総会の資料にある計算書類(貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、株主資本等変動計算書、個別注記表)です。ここに違和感を感じるような内容であれば企業価値は下がります。逆に、事業報告の内容と計算書類の内容が整合していると感じられれば、ステークホルダーとしては好印象です。ただし、これが企業価値が上がることに直結するとまでは言いませんが、少なくともステークホルダーが好印象を持つことは企業価値を上げる要素となります。
また、前述のCSRの要素にはコンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、内部統制が含まれています。以前、上場会社が「当社は財務報告に係る内部統制を整備及び運用している」旨を開示するのは内部統制報告書だけでした。ところが昨今では内部統制報告書だけでなくCSRなど会社の取組みを広く知らしめる項目に内部統制を含めている会社が多いです。主な理由としては、コンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、そしてリスクマネジメントが有効に機能している会社であることをアピールする目的であるとのことです。目的としている方向は異なりますが、私たち内部監査が日々携わっている内部監査・内部統制は社内で地道に行うだけの業務というものではなく、むしろ企業価値を上げる要素の一つとして脚光を浴びているのです。そのすると、今までは企業価値を下げないように不正行為を見つけ出して改善する「性悪説の見方で行う内部監査」が主流でしたが、これからは会社の善の端緒を見出しこれを発展させ徳性にまで達することができる「性善説の見方で行う内部監査」も必要となります。(*以前の記事「内部監査の在り方Part. 13 -性悪説と性善説-」、「Part. 14 -性悪説と性善説②-」をご参照ください)そして、この「性善説の見方で行う内部監査」こそが企業価値を上げることにつながります。なぜなら、いくら不正行為を見つけ出して改善することに成功しているとしても、会社として不正行為が無いことは当然のお話です。しかし会社全体の中で善の端緒を見出しこれを発展させ徳性にまで達することができる社内環境があることは今後の企業価値の向上が見込めることであり、そもそもそのような社内環境であること自体が企業価値そのものです。このようにみていくと、企業価値が上がることしか考えられません。
私がここでいろいろな話題を皆さんと一緒に考えている目的は「経営管理、管理部門構築、内部統制で企業価値を最大化する」です。これは皆さん及び皆さんの会社と「企業価値の最大化」を一緒に考え、コンプライアンス、ガバナンス、リスクマネジメントに強い、一緒に喜べる企業成長をしていくことが目的です。これは私の会社・レイズバリュー合同会社の企業理念でもあります。いままでコンプライアンス、ガバナンス、リスクマネジメントは企業価値を下げないことが目的と思われていましたが、最近はまったく違います。前述のように企業価値を上げる要素にもなるのです。
この機会に、ぜひ内部監査・内部統制を「企業価値を上げる」ためのものとして捉えて推し進めていく経営に方向転換することをお勧めします。次回は引き続き「企業価値」について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)
この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。
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