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"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.19 -人的リソース-

  • 執筆者の写真: 長嶋 邦英
    長嶋 邦英
  • 7月13日
  • 読了時間: 7分

 上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。

 直近事例を内部監査の目線でみていきます。



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 最近、適時開示情報閲覧サービス(TDnet)を見ていると「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」が多いことに気付きました。内容的に一番目についたものは、経理人材・内部監査人材の人的リソース不足により会社の内部統制体制が不十分となったため、開示すべき重要な不備が存在することとなったものです。これについて皆さんといろいろ考えてみたいと思います。


 今回の直近事例のポイントを挙げますと、次のようになります。


  • 内部統制体制のカギは人的リソースの確保

  • 人的リソース不足は喫緊の課題

  • 内部監査人材は「外から採用」?「内で育成」?


 これらを内部監査の目線でみていきます。





直近事例から - 概要説明 -


【事案の概要】

 ある上場会社は決算期末時点において、会計監査人から「内部統制上の開示すべき重要な不備に該当する」との判断を受けた。これは当該会社において経営層による不正行為を抑止できなかったこと(=全社統制に問題があるとの指摘)と、決算期末までに十分な人員の補充を行う事が出来ず、決算・財務報告プロセスに対する統制が不十分であり、重要な不備が存在すると判断されたもの。  当該会社は、本件に関する事実の判明が当事業年度末日以降であったため、当該決算期末までにその是正が間に合わなかったが、その後コンプライアンス体制の強化、人員の補充・強化を行なったことで解消した。 

(出典:TDNETに掲載の某社リリースより要約)



内部統制体制のカギは人的リソースの確保

 2023J-SOX改訂版の財務報告に係る内部統制の評価及び監査の実施基準(以下「実施基準」といいます)に、「4.内部統制に関係を有する者の役割と責任」があります。ここでは①経営者、②取締役会、③監査役等、④内部監査人、⑤組織内のその他の者それぞれの役割と責任が示されています。注目したいのは①経営者です。


(1)経営者  経営者は、組織の全ての活動について最終的な責任を有しており、その一環として、取締役会が決定した基本方針に基づき内部統制を整備及び運用する役割と責任がある。  経営者は、その責任を果たすための手段として、社内組織を通じて内部統制の整備及び運用(モニタリングを含む。)を行う。  経営者は、組織内のいずれの者よりも、統制環境に係る諸要因及びその他の内部統制の基本的要素に影響を与える組織の気風の決定に大きな影響力を有している。 (注) 本基準において、経営者とは、代表取締役、代表執行役などの執行機関の代表者を念頭に規定している。

(引用:実施基準57ページより)


 経営者は、会社の内部統制を整備及び運用する役割と責任があります。これは単に内部統制のルール等を整備し、運用するだけではありません。会社の内部統制の体制を構築・維持する人的リソースの確保も大変重要です。これは、皆さんの中でもIPO準備や上場会社での経験がある方はお分かりになると思います。

 会社の内部統制・内部管理の体制を構築・維持するのに一番必要なのは、人的リソースの確保、いわゆる「手を動かすことができるリソース」です。そのため、IPO準備の会社ではその準備に先立って人材採用に奔走したり、上場会社でも経理人材・内部監査人材の退職に伴う補充等で大変なご苦労を経験された方もいらっしゃるでしょう。そのとき採用する側(IPO準備会社・上場会社)は会社の内部統制を構築し、維持するために一番重要なのは「人的リソースの確保」であることに気付きます。ITの利活用である程度の作業・業務を担わせることができますが、それだけで会社の内部統制の体制を構築・維持することは難しく、結局はITの利活用によって担わせた作業・業務の管理・確認・承認するのは、やはり人です。J-SOXでも「内部統制にITを利用することにより、より有効かつ効率的な内部統制の構築が期待できる」(引用:実施基準51ページ)としていますが、同時に問題もあると示しています。それを管理することができるのは、やはり人だからです。内部統制体制構築・維持のカギは人的リソースの確保であり、人的リソースの確保が難しい/できない場合は、IPO準備を続けること・上場を維持することは難しいと思います。



人的リソース不足は喫緊の課題

 それでは、人的リソースを確保すればいいと考えて人材市場に目を向けてみると、内部監査人材に関する募集は多いのものの、実際の応募数は少ないようです。中にはかなり高額の年収を提示されている上場会社もお見受けします。そうなると、内部監査人材を確保できた会社は良いかもしれませんが、IPO準備期の会社等ではそのハードルの高さのため採用を躊躇するかもしれません。内部監査の仕事の評価が高まっている要素が感じられるのは私も嬉しい限りですが、反面、多くの会社、とりわけIPO準備期の会社やIPO後に更なる飛躍を考えている会社にとっては内部監査人材が「手の届かない存在」になりかねないとも思っております。会社の株式上場は、IPO後の更なる飛躍が待っている反面、上場維持、内部統制・内部管理体制の維持のためには相当の費用・コストがかかります。

 ただし、そのコストはベネフィット(Benefit)を生み出すことを思い出してください。例えば、内部統制・内部監査は、会社のアシュアランス(保証業務)と並行してアドバイザリー(助言業務)によって会社の事業・業務に顕在・潜在する諸問題を解決に導き、業績向上等会社の企業価値向上に寄与するからです。ですから、これらを踏まえて長期的な人的リソースの確保のための対策を講じることをお勧めします。



内部監査人材は「外から採用」?「内で育成」?

 内部監査人材を「外から採用」するか、「社内で育成」するか、どちらをすすめるのかと聞かれたら、できる限り「社内で育成」することをお勧めします。簡単なことではありませんが、人材市場で内部監査人材が少ないことやハードルが高いことを考えたら、長期間かけて応募者を待つよりは、社内で内部監査をやりたい/興味がある方を社内で育成するのが効率的だと考えます。それに、元々社内の業務に携わっている方は社内の良い面・悪い面をよくご存知です。それだけでも内部監査の業務の第一歩は踏み出せます。


※内部監査の業務については、以前の記事をご参照ください。


 内部監査人材を社内で育成するといっても、一朝一夕とはいきません。しかし会社としてはIPO準備のため/上場維持のために今すぐ内部監査人材が必要というときは、外部委託をお勧めします。(以前の記事「- 内部監査の「外部への委託」は可能? -」、「- 内部監査の「外部委託」をお勧めします -」をご参照ください)

 ここで外部委託をお勧めするのは、単に急場凌ぎのためとか安易な発想によるものではありません。内部監査業務の外部委託をお勧めする理由は、次のとおりです。


  1. いわゆる「自己監査」することはない。

  2. 不備、不適合にあたる指摘事項が検出されたとき、客観的な視点で調査・分析し、報告を受けることができる。

  3. 社内の業務負担が軽減できる。タスク管理がしやすくなる。

  4. 社内の内部監査に適した社員に対して、必要なスキルを伝授できる。

  5. 社内では見落としがちな「業務改善につながるポイント・ヒント」の提案を受けることができる。

   など



 人的リソースが不足したことが原因で「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備である」と指摘されてしまうのは、かなり深刻なことだと考えます。なぜなら、この問題の完全な解消には、「外から採用」、「社内で育成」いずれの方法を選択するにしても相当な時間とコストがかかるからです。いざということが目の前に起きることがないよう、十分に検討する時間を用意し準備することをお勧めします。





当社が提供するサービスとして


当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、


  1. IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)


 この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。



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