内部監査の在り方Part.15 -事業計画-
- 長嶋 邦英

- 9月14日
- 読了時間: 7分
内部監査の業務は、深い知識、広い経験、応用力など多くの要素を必要とした業務です。これらを多角的な視点で、これからの内部監査の在り方を見ていきます。
今回は、事業計画です。

事業計画と内部監査①
今回は、内部監査にとって事業計画とは何なのか、内部監査は事業計画に対してどのように向き合うのかなど、いろいろ皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
私の記事の中で、事業計画はいくつかの場面で登場しています。それは、事業計画は内部監査計画を策定する際の重要な要素であるというものです。例えば「内部監査の在り方Part. 12 -内部監査計画②-」では、事業計画と内部監査計画がうまく噛み合っているかどうかを確認する必要があること。この点で両方がうまく噛み合っていなければ、いくら内部監査計画の品質が高くてもそれだけが社内でひとり歩きしてしまい、チグハグになってしまうことをご紹介しています。また「内部監査に向き合う Part.03 - 内部監査計画策定① -」では、内部監査計画の策定ポイント(①何を、②どのように、③どの視点で、④どの程度、⑤誰へ報告することを想定して内部監査するのか?)を定めるときの軸が事業計画となるとご紹介しています。これらは、私たち内部監査にとってこの事業計画が内部監査の業務を行ううえで大切な要素の一つであることを言いたかったものです。私たち内部監査は、事業計画の内容をよく読み込み、理解し把握する必要があると考えます。
また事業計画は、私たち内部監査が各部門を業務監査するうえでの " 共通言語 " になるものです。内部監査にとっては業務遂行状況を監査する際の重要な資料でもありますし、被監査部門とっても業務遂行状況を説明する際の根拠資料になります。このように見ていくと、内部監査にとって事業計画は大切なものであり、事業計画への理解なくして内部監査を実施すること、もっと大きく言えば内部監査の業務に携わることが難しいかもしれません。
事業計画と内部監査②
さて、今度は見方を変えて考えてみたいと思います。
私たち内部監査にとって事業計画は大切なものであるのですが、この事業計画自体について監査対象として内部監査を実施していますか?このようにお聞きすると不思議に思われるかもしれませんが、この事業計画自体を監査対象とする内部監査を実施したことがない方が少なくないかもしれません。その理由としては、
①そもそも事業計画を監査対象とすることを思いつかなかった。
②事業計画を監査対象とする場合の監査手続をどのようにしたら良いかがわからない。
これらが挙げられます。(監査手続については「内部監査に向き合う Part.08 - 監査手続① -」、同「Part.09 - 監査手続② -」をご参照ください。)
「①そもそも事業計画を監査対象とすることを思いつかなかった」については、内部監査の経験の浅い方々であれば仕方ないかもしれません。前項でご紹介したとおり、事業計画は内部監査計画を策定する際の重要な要素であるので、その重要な要素自体を監査対象とすることを思いつかなかったのも、無理はないと思います。そして、思いついたにしても「②事業計画を監査対象とする場合の監査手続をどのようにしたら良いかがわからない」と悩んでいる内部監査の皆さんがいらっしゃったら、そのお悩みはとても素晴らしいです。あともう少しのところです。この記事ではその監査手続の具体的な内容までは踏み込まず、内部監査は事業計画に対してどのように向き合うのかを皆さんと一緒に考えてみましょう。
事業計画と内部監査③
事業計画については、これが直接的ではありませんが間接的に起因した不祥事事案が発生していることをご存知でしょうか。かなり以前になりますが、粉飾決算(売上高等の水増し)事案がありました(いつ頃の事例だったか不明で、申し訳ございません)。そのときの調査委員会がまとめた調査報告には「事業計画において過度な目標を設定し、合わせて代表取締役等経営者層からの相当なプレッシャーもあり・・・このような事態となった」の趣旨の結論があったと記憶しています。
事業計画は会社にとってとても大切なものです。会社の全役員・全従業員はこの事業計画に基づいて業務遂行します。定性的情報の事業計画、定量的情報の予算計画、人員計画、財務計画等様々な計画に基づいて社内の業務はすすめられます。ですから、事業計画への理解なくして内部監査を実施することは難しいと言えるのですが、もし、そもそもこの事業計画の内容や事業計画の策定について必要な手順・手続を経ていなかったものだったらどうでしょうか。さきほどの粉飾決算事案では「事業計画において過度な目標を設定し」とありましたが、例えば今期の売上高を達成するためには販売部門の人員を増員する必要があるのに人員計画では採用予定が無かったり、事業計画で管理費の削減を挙げている一方で販売管理費(広告宣伝費、交際費等)の削減・圧縮を考慮せず収益をあまり考えていない予算計画であるなど、よくよく見たら計画の目標達成は難しいものや目標達成のために特定の部門等に対して過度の負担を強いるような内容になっている可能性があります。もちろん、上場会社が策定する事業計画は経営企画部門や財務部門など専門的知識と経験を有した事業計画策定部門の皆さんが策定に携わっているものですので、しっかりとした内容であることは確かだと思います。問題は、その事業計画策定部門が各部門から収集した数値(予算計画等)がどのような根拠と計算によって立てられているのか?です。例えば、売上高を前期比20〜25%増とした場合、これに伴う人員計画のうち採用の計画が必要となるでしょう。もし現状の人員で売上高を前期比20〜25%増としたら1人当たりの売上高が増えることになりますので、それが現実的な目標かどうか、目標達成が可能なのかどうかも難しいでしょう。もし採用の計画で人員増としていても、採用人員の労務費(給与、社会保険等)や採用費が割高のときは、収益に大きな影響が出るかもしれません。つまり、数値には問題は無いものの、その数値の根拠となる様々な要素に問題は無いのか。それらの要素は計画立案上妥当なものなのかなど、事業計画策定の根拠資料や策定の経緯等を内部監査する必要があると考えます。ただし、内部監査は評論家ではありませんので、事業計画の良し悪しを言ったり、難癖をつけるようなことは決してしません。皆さんの会社には「予算管理規程」や予算策定に関するマニュアルが存在すると思いますので、それら規程、マニュアルに従った事業計画の策定となっているのかを監査することとなります。もし監査の結果で「事業計画において過度な目標を設定し・・・」ということを検出したら、ただちに報告して早急の対応(改善)を促すことをお勧めします。上場会社は決算短信等で数値を開示しています。もし期中に変更するようなことがあれば、開示基準(「会社情報適時開示ガイドブック」東京証券取引所)に従って「業績予想の修正」の適時開示が必要になるかもしれません。しかもこれをたびたび開示していたら、会社の信用・信頼に大きく影響します。以前にご紹介したとおり、内部監査は会社の企業価値を守り、向上させることが役割です。そのために私たち内部監査は、事業計画自体を監査対象として内部監査することはとても重要ですので、強くお勧めします。
文字数のボリュームが多くなりましたので、次回も引き続き事業計画について、事業計画自体を監査対象として内部監査する具体的な内容を皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
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