内部統制に向き合う Part.12 -決算・財務報告プロセス②-
- 長嶋 邦英

- 11月9日
- 読了時間: 8分
2023年04月内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が15年ぶりに改訂されて内部統制が様変わりし、皆さんの会社では豊富な知識と蓄積された経験をもとに日々内部統制を進化させていることと思います。その知識と経験をいったん振り返って整理し、さらに実践に役立つ戦略・戦術として活かすことを考えてみたいと思います。
前回に引き続き、今回も決算・財務報告プロセス(以下「FCRP」といいます)です。

【参考となる書籍・資料】
・財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(企業会計審議会・金融庁)
・財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(企業会計審議会・金融庁)
・今から始める・見直す 内部統制の仕組みと実務がわかる本(浅野雅文著・中央経済社)
・監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(日本公認会計士協会)
【FCRPのポイント②】「個別」で評価する勘定科目がカギ①
前回の記事「内部統制に向き合う Part.11 -決算・財務報告プロセス①-」では、FCRPは財務報告の信頼性の結論であることとご紹介しました。内部統制報告制度自体、すべてのプロセスへの評価(監査)を行うことで財務報告の信頼性を証明するのですが、IT統制(ITGC、ITAC)、業務プロセス(PLC)では特に財務諸表上数値的に大きな割合を占める勘定科目、業務について評価する傾向にありました。その原因は、2023年04月改定以前の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(以下「実施基準」といいます)」(企業会計審議会・金融庁)の「経営者による内部統制の評価範囲の決定」項においていわゆる「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」が例示されていたことによるものです。これのためにこの3勘定以外は除外してもOKの理解が浸透してしまったと思います。私のこれまでの記事をご覧になっている皆さんはすでにお気付きのように、適時開示閲覧サービス(TDnet)で確認できる不祥事事案は、この3勘定で発生している割合よりこの3勘定以外の勘定科目で発生していることが多いです。もちろん、会計監査人(監査法人)による財務諸表監査が行われているのでその時点で不祥事が発覚することもありますが、不祥事事案の中には数年にわたって発覚しなかったものや内部通報によって発覚している事案が多いことは皆さんもご存知のとおりです。2023年04月のJ-SOX改定では3勘定は「あくまで例示」とされ(実施基準74ページ)、「それらを機械的に適用せず、評価範囲の選定に当たって財務報告に対する影響の重要性を適切に勘案することを促すよう、基準及び実施基準における段階的な削除を含む取扱いに関して、今後、当審議会で検討を行う」こととしています。次の改定では、おそらく3勘定は削除されるなど評価範囲の選定が大幅に見直され、さらにUS-SOXのように評価範囲という考え方自体がなくなる可能性もあると思います。そうなると内部統制にかかる人・時間・費用は増大することとなり、IPOにチャレンジする会社や現在上場している会社としては、大きな痛手となる可能性があります。しかし、怖がっているだけでは仕方ありません。
前置きが長くなりましたが、ここでもう一度、会社の内部統制の方針(考え方)を見直すことをお勧めします。内部統制の目的は、すべてのプロセスへの評価(監査)を行うことで財務報告の信頼性を証明することが大目的であり、その他4つの目的で示されている「業務の有効性及び効率性」、「事業活動に関わる法令等の遵守」、「資産の保全」を達成することにあります。各プロセスそれぞれ大切なポイントがありますが、FCRPでは前回の記事で「評価を「全社」より「個別」に重点を置く」ことをお勧めしました。そして今回は「個別」で評価する勘定科目がカギであることをお勧めします。この点については、私たち内部監査の皆さんが頭を悩ませるより、会社の経理部門、財務部門と連携してどの勘定科目に重点を置くかを協議・検討することをお勧めします。例えば、IT企業では自社のサービスを開発・保守する必要がありますので、もちろん重点を置く勘定科目として「無形固定資産」、「人件費/労務費(原価、管理費に関わらず)」を挙げますが、特に期中では「システム(プログラム)仮勘定」と半期・年次決算時の整理仕訳が正確に行われているかがポイントとなります。内部統制評価者としては最終的に財務諸表に示される「無形固定資産」、「人件費/労務費」だけを見がちですが、内部統制は内部監査の「点の監査」と違い「線の監査」であるため、入口となる顧客・取引先との契約から最終的に財務諸表に示される各勘定科目の数値に至るまでの経緯を評価(監査)することが大切です。そのための一つの方法としてFCRPの「個別」で評価する勘定科目がカギとなると考えます。
【FCRPのポイント③】「個別」で評価する勘定科目がカギ②
FCRPの「個別」で評価する勘定科目がカギであるとご紹介しましたが、しかしながら幾つもの勘定科目を取り上げるのには限界があります。3勘定に捉われないとしつつも効率的に要所を押さえるとしても、それを合理的に説明できるものでなければなりません。以下にアイデアをご紹介します。
<アイデア1>売上高に対する売上原価+販管費の勘定科目も評価する
これは、これまでの3勘定の拡大版のイメージです。最近の不祥事では棚卸資産や販売原価の付け替えや改ざんというものを目にすることが多くなりました。おそらく利益率を良く見せるためのものと思われます。これはどのような業種にも利用できるものと思いますので、お勧めします。
<アイデア2>主要事業に関連する勘定科目全般を評価する
これもアイデア1と似た感じですが、PLCとのクロス評価(監査)することをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。つまり、PLCでは業務遂行と記録(証憑)に関する「線の評価」、FCRPでは各業務において計上される数値の財務諸表までの「線の評価」で、これらを並行して実施するものです。これまではPLC、ITACで各業務において計上され経理部門へ提出されるまでの数値の評価を行なっていたと思いますが、これを切り分けてFCRP個別で評価するというものです。一見するとPLCとFCRPで評価する部分が重複することもあり、二度手間の印象も否めません。しかし、よくある不祥事はフローチャートにある業務の流れと異なることを行なっていることが多いです。これは財務諸表上の数値だけではわかりませんから、FCRPとPLCのクロス評価を行うことで各業務ごとに挙げている数値(売上高、原価、販管費、数量等)と業務の流れの正確性、整合性等を確認することができるというものです。こちらも、どのような業種にも利用できるものと思いますので、お勧めします。
<アイデア3>リスクが大きい取引・非定型・不規則な取引の勘定科目に特化する
実施基準に「ロ.①で選定された事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する。」(75ページ)とあります。これによって多くの場合FCRP個別で「見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目」を挙げて評価することが多いと思いますが、リスクが大きい取引・非定型・不規則な取引にかかる勘定科目は多くの場合PLCに含めてしまうか、金額的に少ないことで評価範囲に含めない選択をすることが多いと思います。この「財務報告への影響を勘案して」は魔法の言葉となり、金額の多少を基準として勘定科目を選定したために、評価範囲外となった勘定科目において不祥事が発覚するケースがあります。直近でも、従業員があまり大きくない金額を複数年にわたって経費水増し等により少額の横領・着服していた事例がありました。単年度ならともかく、このような不祥事が複数年発覚しなかったとなれば評価(監査)の実施に不備があったと指摘されても仕方ありません。
また、重要な勘定科目は例年同じである必要はありません。毎期の事業計画に応じて入れ替えることが必要です。なぜなら、会社の経営・事業リスクは毎年同じではないからです。リスクが大きい取引・非定型・不規則な取引の勘定科目に特化する方法もFCRP個別にとっては重要なポイントとなります。こちらも、どのような業種にも利用できるものと思いますので、お勧めします。
今回はFCRPの個別評価について、いろいろ皆さんと考えてみました。内部統制の評価の中で最も難しく、工夫することが求められるのはFCRPだと思います。前回の記事でご紹介したとおり、FCRPは「財務報告の信頼性の結論」です。
次回も引き続きFCRPについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
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この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。



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