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  • 執筆者の写真長嶋 邦英

J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.07 - 評価範囲①・勘定科目 -

 2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が発表されました。15年ぶりの改訂です。

 今回の記事では、評価範囲の選定に関するもので「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」について説明します。この点は、皆さんの会社に大きな影響のあるポイントです。










細かい説明が書き加えられているのがポイント


 2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)では、基本的要素など大きな改訂箇所がありますが、細かい点でも改訂箇所があることをご存知でしょうか。例えば、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下「実施基準」といいます)には内部統制の評価監査に関する細かい説明がありますが、その説明部分に書き加えられているものが多数見受けられます。詳しくは「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(抄) 新旧対照表」(以下「2023J-SOX新旧対照表」といいます)をご参照ください。


 この書き加えられているものの一つに、その評価の範囲を選定に関する記述があります。この記述は、内部統制評価者に大変大きな影響を受ける内容です。


 この評価の範囲を選定に関する記述のうち「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」に関する記述があります。改訂前と改訂後を見比べてみましょう。2023J-SOX新旧対照表の27〜28ページをご覧ください。


4.業務プロセスに係る評価の範囲の決定 ② 評価対象とする業務プロセスの識別 <改訂前> イ.①で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目(例えば、一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則として、全てを評価の対象とする。 (上の太文字部分は改訂後削除されている部分) <改訂後> イ.①で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、財務報告に及ぼす影響を勘案し、原則として、全てを評価の対象とする。 (上の太文字部分は改訂前から加筆している部分)

(出典:2023J-SOX新旧対照表の27〜28ページ)


 評価範囲の選定の際、「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」についてはいわゆる3勘定(売上高、売掛金、棚卸資産)が通例でした。その通例となった根拠がこの改訂前の実施基準です。これが今回の改訂では3勘定等の例示が削除され、「財務報告に及ぼす影響を勘案し」と加筆しています(*注1 )。財務報告に影響を及ぼす勘定科目はすべて評価の対象となる、となれば、その会社の業種・業態によってはその評価範囲が大きく変わることになるかと考えます。例えば、製造業であればすでに評価の範囲に含めている会社が多いと思いますが、売上・収益に対する原価の部分(売上原価に紐づく勘定科目)はその会社の営業利益に大きな影響のある勘定科目ですので、今後は評価の範囲内になるということです。この製造業の例に限らず、その会社の業種・業態はもとより会社の規模等によっても評価の範囲は違ったものになるでしょう。いままでのように3勘定だけでは済まなくなるのです。

(*注1 :3勘定等の例示は、2023J-SOX改訂版の冒頭箇所で「機械的に適用すべきではない」と明示しています。)


 今回の記事では、2023J-SOX改訂版の細かい説明が書き加えられている箇所に十分注意していただきたいと思い、遅まきながらご紹介する次第です。


 それでは「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」について、考えてみましょう。



勘定科目の評価範囲をどこまで広げるか?

 上では「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」についての考え方が2023J-SOX改訂版で変化したことを考えてみました。そこで皆さんは「勘定科目の評価範囲をどこまで広げたら良いのか?」という疑問を持つでしょう。この点は先のとおり、その会社の業種・業態はもとより会社の規模等によっても評価の範囲は違ったものになるので、説明しにくいところです。ただし、業種・業態によっては「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」に大きな差は少ないと考えますので、同業・競合他社を参考にしてみるのもひとつの方法かと考えます。逆に、その会社独自に評価範囲を十分に検討し、その会社の内部統制を十分にアピールできる優れたものを作り出すことも可能です。

 しかし、いまの日本の上場会社において、内部統制・内部監査の人材がとても少ないので、この内部統制に時間的・人員的リソースを十分に割り当てることができる会社は少ないのではないでしょうか。


 話は逸れますが、この評価範囲の選定についてUS-SOXではどのようになっているか、ご存知でしょうか?

 じつは、US-SOXでは特に評価対象となる勘定科目の選定に関する記述はありません。J-SOXの3勘定のような例示もありません。つまりUS-SOXでは、その会社の財務諸表にある勘定科目は " すべて評価対象 " なのです。ちなみに後日ご紹介しますが事業拠点の範囲も定量基準(95%ルール)のようなものは存在しません。つまり、これも親会社と全子会社のすべてです。今回の2023J-SOX改訂版で評価範囲の選定に関する記述で、改訂前にあった定量基準等の記述が曖昧な言い回しなどに改訂しているのは、J-SOXが徐々にUS-SOXに寄せる傾向にあるものと見られます。あわせて、3勘定を含む定量基準については段階的な削除を予定していると示しています。

 なお、上記の「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」について、それらを機械的に適用せず、評価範囲の選定に当たって財務報告に対する影響の重要性を適切に勘案することを促すよう、基準及び実施基準における段階的な削除を含む取扱いに関して、今後、当審議会で検討を行うこととしている。

(出典:2023J-SOX改訂版4ページ)


 このように、3勘定を含む定量基準については段階的な削除やUS-SOXに寄せる傾向等を踏まえると、皆さんの会社においては、早いうちに財務諸表にある全勘定科目を評価対象とする準備をお勧めします。



評価対象とする勘定科目の決め方のポイント

 J-SOXでは、その言葉どおり「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」なので、評価対象とする勘定科目の決め方のポイントは、


  1. 会社の事業の売上高関連の勘定科目:売上高、売掛金、前受金など

  2. 会社の事業の仕入等原価関連の勘定科目:材料費、労務費(原価)、外注費、システム利用料など

  3. 会社の事業の販売促進関連の勘定科目:広告宣伝費、労務費(販管)など


 上の3つのうち、1つ目はわかりやすいものですが、業種・業態によっては前受金等も範囲に入れることも検討してください。

 2つ目も、業種・業態によっては定期的に確認している勘定科目ですので特に違和感は無いと思いますが、IT統制にも関係するシステム利用料の内容・内訳に十分ご注意ください。

 3つ目は、プライム上場会社や " B to C " の会社は、広告宣伝費をすでに評価範囲の対象としているのではないでしょうか。もし評価範囲の対象としていない場合は、今後その対象とするかどうか十分検討してください。

 なお、上の3つは、経理業務の定期的な業務として「試算表の作成」を行なっていると思いますが、その勘定科目に計上している金額の根拠となる証憑が保管されているのか。正確なエビデンスなのか。これらの内部統制書類(3点セット等)があるのか。これらが重要です。もし証憑の保管状況が芳しくない、内部統制書類を整備していないなどがありましたら、整備へ着手してください。


 これら評価対象とする勘定科目を決めたら、それらを評価する準備に入ります。FCRP(全般、個別)、PLCのチェックリスト・RCM等の書類はもちろん、統制項目によってはITGC、ITACの評価にも影響するかもしれません。そのため、PLCの業務記述と業務フローから整備をはじめることをお勧めします。



 今回の記事では、評価範囲の選定のうち「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」について考えましたが、このほかにも事業拠点(子会社を含む)、業務プロセスを選定する指標(3勘定等の例示等)など、その取り扱いに十分注意する必要や社内で検討する必要があります。これらは、目的としてUS-SOXに寄せることを目指しているものと考えられますので、今回の改訂のような15年後・・・というわけにはいかないでしょう。

 これについては次回以降の記事で考えていきます。





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当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、


  1. IPO準備中企業の内部統制体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

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  3. IPO準備中・上場企業の内部統制にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部統制責任者として、社内に1名選任をお願いします。)


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