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  • 執筆者の写真長嶋 邦英

IPOと法務デューデリジェンス

 IPO準備期では、まずは『法務デューデリジェンス』を行なってください。

これは非常に重要です。

いったい、なぜ? 何を、どこまでするのか?

このあたりを説明します。

(約5分程度でお読みいただけます。)






法務デューデリジェンスとは?


 法務デューデリジェンスとは、M&A(Mergers and Acquisitions(合併、買収)」のとき、買収する側の会社が対象となる会社に対し、その状況を確認する調査のひとつです。

このほか財務デューデリジェンス、事業デューデリジェンス、人事・労務デューデリジェンスなどがありその範囲、深度は、対象となる会社の業界、経営状況等によります。


 なかでも法務デューデリジェンスは、他の領域と重なる範囲もあり、法務の知識だけで調査できるものではありません。また、他の領域を調査するメンバーと連携をとりながら調査を進める必要があり、これによってさきほどの「他の領域と重なる範囲」の境界線あたりで " 抜け漏れ " を防ぐ必要があるのです。


法務デューデリジェンスでは、主に次のような項目を調査します。

  • 顧客/取引先との契約状況、契約書管理状況

  • 経営/事業における法令遵守状況(コンプライアンス状況)

  • 訴訟紛争

  • 株主・株式の状況

  • 債務状況

  • 人事・労務の状況   など

 項目を見ると、さきほどの他の領域と重なる範囲の境界線あたりというのがおわかりになるかと思います。また、これらの項目は、いわゆる「表向きの資料」だけではわかりかねる内容です。そのため、資料収集だけでなく、関係部門・部署へのヒアリングや対象となる会社以外の情報収集(例:企業調査、など)を行うことがあります。やることは膨大です。


 これらの項目は、特に法務の知識である・・・わけではありません。

例えば、顧客/取引先との契約状況は、営業部門がその窓口になっている会社が多いので、法務部門よりは直接営業部門にヒアリングを行った方が、調査内容の深度が深まるかもしれません。このようないわゆる " 勘所 " を持ったメンバーが調査を実施するのがよいかと思います。

 また、株主・株式の状況は、一般的に管理部門から提出される資料から読み取りますが、会社と株主の友好度合い(代表取締役に好意的なのか? 敵対的なのか?)まではわかりません。このような場合は、直接株主へヒアリングを行います。時間のかかる調査となります。


 このように、M&Aでの法務デューデリジェンスは、かなり重要な要素を丹念に調査し、他の領域では抜けてしまいそうな部分についても、漏らさずに調査し尽くす必要のある領域なのです。


 では、この『法務デューデリジェンス』ですが、

なぜIPO準備企業においても " 必要 " なのでしょうか?

また、どの程度の深度が必要なのでしょうか?





IPOで、なぜ法務デューデリジェンスをするのか?


 法務デューデリジェンスをご存知/行ったまたは受けられたご経験のある方は、「IPO時にデュデリジェンスなんて、聞いたことがない」と思われるかもしれません。私も経営者層にこれをお話しすると、困惑されるケースが多いです。

 しかし、すべて説明し終える段階で、ほとんどの経営者層の方々はご納得されます。


 デューデリジェンスの良い点は、その会社の " 等身大 " の姿を洗い出せることです。

もう、この時点でピンとくる方が多いのではないでしょうか。IPO準備の際に「何を、どこまで準備したらよいか?」というご質問をいただくのですが、そのご質問の回答は、じつはその会社自体がその回答をもっており、会社にとってIPO準備期に " やるべきこと " がわかるのです。

 IPO準備期に行う法務デューデリジェンスの主な項目は、次のポイントになります。


  • いま当社は、何が/どこまで揃っているのか?

  • いま当社にある体制等は、会社の成長に比例して、分相応に構築しているのか?

  • 競合他社とどの程度の差が生じているか?   など


 特に、IPO準備期の法務デューデリジェンスでは、ガバナンスとコンプライアンスの体制に関する関係法令等と照らしながら調査しますので、「このレベル」という基準が見えてくる、または知りたい、と思われるのは、当然かと思います。しかし、実際にそのレベル、基準を探してみようとすると見つかりません。なぜでしょう?

 それは、先般私の記事「IPO準備の内部統制 - 2 -」でもご紹介しましたが、その会社の " サイズ " に合ったルールを、その会社自身が作っていく必要があるからです。もちろん関係法令には罰則規定を設けている法令(金商法)もありますが、条文にはどこまで構築したら良いか?というレベルの記載は、一切ありません。その会社のポリシー(経営方針)に基づいて内部統制体制を構築するなどのIPO準備をしなくてはならないのです。


 ここまでお話しすると、前述のポイント「いま当社は、何が/どこまで揃っているのか?」を挙げた理由がお分かりかと思います。これを洗い出さない限り、先には進めないのです。このとき、先に記載しました通り、「レベル」「基準」は探さないでください。もし御社がいまの時点で「監査役不在」の会社であったとしても、何ら問題はありません。機関設計上では、なるべく早くに常勤監査役を選任し、遅くとも直前々期(N-2)に監査役会設置(監査役会設置会社)に移行して、上場審査申請にその添付資料として「事業年度2期分の監査報告」を提出できるよう、準備すれば良いのです。


 前述で具体的な事例を挙げました。これは法務デューデリジェンスを行うことで、「当社に何が足りないのか?」を見つけ出すことができる、よい例だと思います。

 IPO準備期の法務デューデリジェンスを行うことで「何がわかるか?」を、先の具体例から論理的に説明すると、次のようになります。


  • 当社は「上場企業」になる(なりたい)。

  • 当社の現状は「取締役会設置会社」である。

  • 有価証券上場規程(東京証券取引所)第437条に  上場内国会社は、次の各号に掲げる機関を置くものとする。 (2)監査役会、監査等委員会又は指名委員会等

=>ゆえに、当社は監査役会を設置する必要がある。



 この逆で、「レベル」「基準」を先に探し、これと当社の現状を比較しようとすると・・・探すだけでかなりの時間を必要とするでしょう。また前述の通り、「レベル」「基準」は見つかりませんし、また上記の例のように、IPO準備期に「有価証券上場規程」などあまり見かけないようなルールまでも丁寧に探して、読み、理解する、のはかなりの時間がかかります。

 このような場合は、まずは私のような外部専門家にご連絡ください。その概要と法務デューデリジェンスを実施させていただきます。




IPO準備期にこそ「法務デューデリジェンスの実施」を


 今回は、IPO準備期にこそ法務デューデリジェンスの実施が必要である、ということを、ごくわずかな例を加えて説明しました。ただ、今回の説明以上に、IPO準備時での法務デューデリジェンスの重要性は非常に高いものです。


 そして、この法務デューデリジェンスは、ぜひ外部委託することをお勧めします。

理由は、社内でのみ洗い出しをしようとすれば、" ひいき目(贔屓目) " になってしまい、正確な現状を洗い出せず、個々の項目に対応する関係法令等ルールが曖昧なままIPO準備に要する工程、時間を甘めに想定してしまうでしょう。

 有名な兵法書「孫子」にもありますように、



知彼知己者  百戦不殆 不知彼而知己 一勝一負 不知彼不知己 毎戦必殆

  「彼を知り己を知れば、百戦あやうからず

   彼を知らずして己を知しれば、一勝一負す

   彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ずあやうし」

出典:孫子 謀攻篇



 ここにある「彼」とは、今回のIPO準備の際に必要な関係法令等ルール、「己」とは会社のこととご理解ください。彼を知ることも大切ですが、己という「会社の " 等身大の姿 " 」を知ることも大切です。2行目に「彼を知らずして己を知しれば」とありますが、この逆も同じことです。彼を十分に知ったとしても、己を知ることがなければ、一勝一負(勝ったり負けたり)することになります。IPOはギャンブルではありませんので、勝ったり負けたり・・・というのは避けたいですね。



 繰り返しとなりますが、IPO準備期では、まず『法務デューデリジェンス』を行なってください。財務系のIPO準備(資本政策を除く)は、例えば財務報告(財務諸表等)は会計基準に則って業務を行う必要があり、ルールが確立されていますので、現状の確認程度で済むかもしれませんが、この法務系についてはルールが明示されていません。そのために「己を知る」「自分の洋服のサイズを知る」ことが大変重要です。


 法務系のIPO準備の工程、作業は、かなりの時間を必要とするものがあります。

余裕をもって事前に『法務デューデリジェンス』を行い、適切な時期に、適切なかたちで上場しましょう。




当社が提供するサービスとして

当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、

  1. IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)

 この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査部門の設置/内部監査業務の見直しをご検討ください。

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