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  • 執筆者の写真長嶋 邦英

管理系部門がIPO準備でやること Part.04 - 法務編続編 -

 「管理系部門がIPO準備でやること」について、数回に分けて説明・ご紹介しています。前回の「管理系部門がIPO準備でやること Part.03 - 法務編 -」で、IPO準備における法務の守備範囲の広さ、法務担当者と法務部門の必要性、法務がIPO準備で活躍するカギについて説明しました。今回は法務編の続編です。

(*着手する順序は時系列ではないので、その点はお許しください。)

(*約5分程度でお読みいただけます。)









法務はタスク整理とスケジュール管理の能力も必要


 前回の引き続きで説明をはじめていますこと、お許しください。

 法務には、タスク整理とスケジュール管理の能力も必要であると、前回説明しました。これについて深掘りしますと、IPO準備作業のタスクのうち、法務がやるべき作業は大小さまざまでたくさんあります。しかも、代表的なものとして挙げられる作業項目はもとより、細かく、取るに足りないと思われがちで、しかしながらのちになって重要な項目となってしまうような抜け漏れ項目も、法務がやるべき作業になってしまうことが多いです。そのため、事前に作業タスクを整理して、スケジュールを管理していていたにも関わらず、準備進行中いつのまにか作業タスクが増えていたり、そのタスクが完了していないために次のタスクに進めず、スケジュールが遅延してしまったり、そのためにIPO準備スケジュール全体に多大な影響を及ぼしてしまうことになりかねない、非常に重大な致命傷になりかねません。

 そのため、法務はIPO準備のタスクと全体スケジュールとは別に、自己のタスク管理とスケジュール管理が必要です。

 そのポイントを次のように挙げてみます。


  1. 法務が担当するタスクについて、IPO準備用の作業工程とその作業内容、作成準備が必要な書類を早めに把握し、これらの周辺作業と必要書類の事前勉強を進めること。

  2. 1の周辺作業について、早くに着手できるものがあればすぐに行うこと。(*書類については、全部作成できなくても事前にやり始めることが大切です。)

  3. 2で周辺作業にかかる期間を計算し、全体スケジュールに組み込んで再調整すること。(*ここで、もしその周辺作業が重要な内容で、相応の時間がかかることやこの周辺作業を完了させなければ次に進めないものか?を十分に確認して調整することが肝心です。)

  4. 全体スケジュールの再調整で、一番必要なことは、準備期間中に開催する必要のある取締役会、株主総会(*いずれも定時、臨時を含む)の日程です。特に株主総会の日程は、簡単には動かすことはできません。上程議案や資料の準備には十分な時間をかけつつ、また見直しや微調整が必要なことはよくありますので、開催直前に抜け漏れを発見することのないよう、全体スケジュールの再調整を行うこと。

  5. 一つのタスクを完了させるために、複数回の議決が必要な議案もあります(例:資本政策、機関設計、役員就任など)。目先のスケジュールだけでなく、全体スケジュールを俯瞰して、作業タスクを進めること。


 上はごく一部ですが、これをするために法務は、自身の守備範囲以外にも気を配り、その作業タスク内容と具体的な作業内容も把握しておかなければなりません。他のメンバーは、そこまで全体のことに気を配る必要は少ないですが、法務は例えは、各タスクに必要な規程、業務マニュアル等ドキュメントを用意するなど、いの一番に作業を開始することもありますので、他の作業タスクの遅延にならないよう早くの作業着手を心がけてください。


 このようなわけで、法務はタスク整理とスケジュール管理の能力も必要と言っているのは、自らの作業タスクとそのスケジュールだけでなく、IPO準備全体の作業タスクとスケジュールを把握し、かつその進捗状況とこれの後に続く作業タスクへの準備対応と周辺状況を情報収集して、法務が携わる作業タスクへの影響度を検証する必要があるのです。




IPOと法務デューデリジェンス


 先般「IPOと法務デューデリジェンス」でご紹介しましたとおり、法務デューデリジェンスとは、M&A(Mergers and Acquisitions(合併、買収)」のとき、買収する側の会社が対象となる会社に対し、その状況を確認する調査のひとつです。この法務デューデリジェンスを、IPO準備の際に実施することが「管理系部門がIPO準備でやること」の大きなポイントになります!(重要なので “ ! ” を付けました)この法務デューデリジェンスを実施するにあたり、重要なポイントがあります。



【IPO準備の際に法務デューデリジェンスを実施するポイント】

  1. 法務デューデリジェンスを実施する項目とその内容の深さ

  2. 法務デューデリジェンスを実施する時期(タイミング)

  3. 法務デューデリジェンスを実施する目線(切り口)



 IPO準備で法務デューデリジェンスを実施する目的は、準備会社自身の " 等身大 " の姿を洗い出すことです。その会社の良さだけでなく、不十分なところを、さらにその不十分さがどの程度なのかを確認するのです。このことは、会社にとって耳の痛いところかもしれませんが、等身大の姿を洗い出すことで、何を、どの程度、どれくらいの準備期間が必要なのかを徹底的に把握することです。これはIPO準備期間中のタスクの洗い出しとスケジュール管理に大いに必要なのです。また余談ですが、これを実施することで、改めて会社自身の強み/弱みを知り、孫子に書かれている「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」となります。



 まずは 1. 法務デューデリジェンスを実施する項目とその内容の深さについて、M&Aでの法務デューデリジェンスでもそうですが、IPO準備に際しても同じ項目・同じ深さで実施するようにします。ただし、M&Aでは、いわゆる財務面のデューデリジェンスが大きく捉えられがちですが、IPOでは内部管理体制の構築度合い、その継続性が大きなポイントとなりますので、十分にご注意ください。


次に 2. 実施する時期ですが、これは意見が分かれるところです。

  • IPO準備期の開始当初に実施する

  • IPO準備期前に実施する

  • IPOを決断した時に実施する

 私の意見としては、3つめの「IPOを決断した時に実施する」のが最良です。理由は、IPO準備を決断していざ会社内の意識がIPOに向かったあとに法務デューデリジェンスをすると、万一IPO準備ができるような体裁を ” 持っていなかった ” ことが判明した場合、もう後戻りできません。こうなるとこのIPOは、会社成長のためのマイルストーンのはずのものが、いつしか「IPOがゴール」になってしまうからです。IPOをゴールにしてしまった会社は、その後の会社成長が鈍るか、上場維持に必死になってしまうようなことになりかねません。このようなことが無いように、経営者層がIPOを決断した時に実施することをおすすめします。


 3. 法務デューデリジェンスを実施する目線(切り口)ですが、これは 1 で説明しましたように、IPOでは内部管理体制の構築度合い、その継続性が大きなポイントとなりますので、会社が今後成長するにあたって、その成長を当初考える業績予想を超えられるような事業の内容、組織体制、内部管理体制を見据えることが大切です。経営者の皆さんはすでにご存知のとおり、事業の内容、組織体制は刻一刻と変化する社会/業界の情勢に適応するために変化し続けます。これに柔軟に対応できるように柔軟性を持たせられるような仕組みにすることです。続いてこの柔軟性を持った仕組みに対してしっかりと支えていけるような強固な内部管理体制を構築することです。この “ 柔 ” と “ 剛 ” がどのような割合で、どのくらい柔・剛なのかを把握することです。この柔・剛の度合いなどは、会社・経営者それぞれの考え(ポリシー)があると思いますので、十分に社内で検討して決定することとなります。決して他社と比較して・・・はおやめください。自社は自社。他社は他社です。




法務は「会社の強さ」を証明する役目


 最後の見出しで大袈裟なことを挙げました。ただ、実際に法務担当者に助けられた方々もいらっしゃるのではないでしょうか。取引でのトラブルで起死回生のアドバイスをもらったことや、行政機関等への提出書類の短時間作成・提出などです。法務業務というと、法的なアドバイスがメイン業務、と思われがちですが、実際は手を動かせないと、アドバイスだけでは何の解決もできないような出来事が社内にたくさんあります。


 今回はIPO準備に関する記事ですので、法務が「会社の強さ」を証明する役目であることについて説明しますが、改めてIPO準備期で法務が担う役目として、


  • 法務デューデリジェンスの実施

  • 会社の知的財産権(特許権、商標権など)の洗い出し (*一般的には法務デューデリジェンスの中で実施します。)

  • コーポレート・ガバナンスに関する作業とこれに必要な取締役会・株主総会の上程議案原案作成、議決の手順作成(及びこれに必要な登記準備)

  • 他のタスクでの抜け漏れの監視

  • 準備期間中の法的トラブル対応(又はこのリスク管理)


 これらは、法務の目線だからこそ可能な役目で、これらの対応内容、対応時間、対応の結果の良し悪しで、順調なIPO準備ひいては上場後の会社成長の道程が決まるからです。なお、上の5点は、時間をかければ誰でもできる役目ですが、IPO準備はダラダラと行うものではありません。人的・コスト的な予測を持ったうえである程度の時間的予測を持たなければなりません。その理由は、時間はある意味では「無限」ですが、人とコストは「有限」だからです。(*そのためにIPO準備にかかる期間を知りたいという心理は理解できますが、上場申請/上場承認の期日・タイミングを決めたうえで人とコストを用意するというのは、本末転倒ですので、ご注意ください。)




 前回と今回の2回に分けて、IPO準備期での法務について説明をしました。実際にIPO準備に入ってみると、法務の役割に関する情報について、事前に収集した内容と実際とでは少々違っていた、というお話しを聞きました。

 特に今回は触れませんでしたが、上場準備会社の資産に関する洗い出しで抜け漏れの多いポイントとしては『知的財産権』があります。どの会社にも商標権および特許権を持っているものですが、これの「企業成長の観点から見た価値」を見誤る(過小/課題評価)ことです。これについては後日、説明します。


 私自身もIPO準備にかかる外部委託としてお任せいただいたときに、法務関連のタスクの大切さを実感・実体験しています。法務は自身の業務範囲内だけでなく、他のメンバーの業務範囲を俯瞰し、業務を協力・連携できるか。また、経験等に基づいて最良で最短の対応ができるのかが、IPOというマイルストーンを順調に通過するためのカギになります。


 IPO準備に成功事例がありますが、千差万別です。つまり、正解はないのです。


 「人事を尽くす


 この言葉は本来「人事を尽くして天命を待つ」と言われておりますが、IPOは賭けではありませんので、運を天に任せる必要はありません。人事を尽くして準備を行えば、問題なく上場は可能です。ただし、その人事を尽くすことの「尽くし方」がどうあるべきか、が大きなポイントなのです。


 皆さんの会社で、ぜひしっかりとした歩み・人事を尽くしつつ、IPO準備に取り掛かりましょう。






当社が提供するサービスとして


当社が提供する「Corporate(管理系)部門 業務支援」サービスでは、


  1. IPO準備中企業のCorporate部門の業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業のCorporate部門の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業のCorporate部門にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(法務業務支援など)



 この機会に、ぜひCorporate部門のあり方、必要性をご理解いただき、Corporate部門の業務体制構築/再構築、業務支援をご検討ください。


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