IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、ガバナンスと規程、業務マニュアルの関係についてです。
規程・業務マニュアルはなぜ必要なのか?
これまで5回にわたって規程・業務マニュアルについていろいろ考えてみましたが、今回は少し見方を変えてガバナンスと規程、業務マニュアルについて考えてみたいと思います。なぜかというと、規程・業務マニュアルについていろいろ考えているうちに「そもそも、なぜ会社に規程、業務マニュアルが必要なのか?」という問いに対してネット上では色々な見方から説明されていることを目にし、「果たしてその説明が本当にそうなのか?」、「その説明で会社、従業員の皆さんが納得するものなのか?」という疑問が出てきたからです。
前回の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.19 - 規程と業務マニュアル⑤ - 」等でご紹介しましたが、J-SOXでは「会社の内部統制は、社内規程等(*ここに業務マニュアルも含まれます)に示されることによって具体化されるもの」(参照:J-SOX監査基準10ページ)と説明しております。またネット上で「社内_規程_なぜ必要」と検索すると、内部統制関連、IPO関連の紹介をしている企業ホームページがでてくるのですが、各社まったく異なる内容の説明を示しています。これはどの説明も的を得ていますし、規程と業務マニュアルをどのような見方、立ち位置、背景、必要性等を考慮して説明しているので、私としてはすべての説明が、そのときにかなって正しいものと考えます。例えば、規程は英語で「Ragulation(s)」と訳されます。逆にRagulation(s)を日本語に訳すと規制、規則、法令等に訳されます。このようにみると規程は、会社・業務・役員・従業員を制御するものとの理解となります。そのため先ほどのJ-SOXで示されている規程の説明と少々異なっているようにみえますが、背景は違えど規程と業務マニュアルをどのような見方、立ち位置、背景、必要性等を考慮して説明していると納得できるものと考えております。
具体的に規程・業務マニュアルを見ますと、まれにその各条文・文章が内部統制の具現化のために定めているのか又は会社・業務・役員・従業員を制御するために定めているのかがわからない規程・業務マニュアルがあります。例えば、販売管理規程に売上予算の作成に始まり見積・受注(契約)・請求・回収・出荷の各業務プロセスの順に条文を定めているのを見ると内部統制の具現化のための規程であることが理解できますが、それぞれの条文には業務プロセス(PLC)を根拠にしておらず、誰がそのプロセスの責任者なのか、承認を申請する方法(どのワークフローを使用する?メール・口頭でも良い?等)までを定めていないケースがあります。このようなケースでは、読み手である従業員は定めた意図を十分に理解しないままでいると誤った解釈で規程・業務マニュアルを実行することになります。皆さんの会社で、もしこのような状況になっていましたら、規程・業務マニュアルはなぜ必要なのか?その規程・業務マニュアルは内部統制の具現化のために定めているのか又は会社、業務、役員・従業員を制御するために定めているのかを改めて検討・再考することをお勧めします。特に内部統制の整備・運用評価で指摘や不備に当たる事項が検出されたときに規程・業務マニュアルを新たに制定したり現行の規程・業務マニュアルを改定すると思いますが、そのときに指摘・不備を改善することにクローズアップするあまりに「〜してはダメ」、「〜の方法以外は認めない」と規制・規則・法令のような書きっぷりになりがちです。そうなると読み手(従業員)は「ダメと言われたことをしなければいい。それ以外はなんでもアリ。」というような、その規程・業務マニュアルへの理解(見方、立ち位置、背景、必要性等)が誤った方向に向かったり、規程・業務マニュアルが意図している真意についての理解が難しくなってしまうかもしれません。これによってガバナンス(統治)と業務遂行が機能不全になることが最も怖いことです。
ガバナンスと規程・業務マニュアルの関係
規程・業務マニュアルはなぜ必要なのかの理由としてもうひとつ考えられることは、規程・業務マニュアルがガバナンス(統治)のためにあるということです。日本公認会計士協会サイト・会計・監査用語かんたん解説集に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)は「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのこと。」と示しています。これをスムーズに実施するには規程・マニュアルが必要であると考えます。皆さんにとっては「当たり前のことだ」と思われるかもしれませんが、これが実際に規程・業務マニュアルの各条文・文章を見ると透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みにはなっていない又はその仕組みには関連が薄い/無い内容が定められていないでしょうか。もしこのような状況ですと、読み手(従業員)はその規程・業務マニュアルへの理解(見方、立ち位置、背景、必要性等)が曖昧になったり納得が難しくなってしまうでしょう。このように考えると、規程・業務マニュアルの作り手である法務・総務等管理系部門の皆さんや事業部門の業務マニュアル作成担当の皆さんは、規程・業務マニュアルの制定・改定のたびにどのような見方・立ち位置・背景・必要性等を考慮して説明しているものなのかを再確認・再検討する必要があるかもしれません。内部統制の具体化のためなのか。会社、業務、役員・従業員を制御するためなのか。ガバナンスのためなのか。それによってそれぞれの規程・業務マニュアルにおいて目的、内容等を定めておく必要がある事項が明確になりますし、読み手(従業員)の規程・業務マニュアルへの理解が深まるものと考えます。
ガバナンス(統治)といっても、トップダウンが原則というわけではありません。以前Instagramでトヨタ自動車代表取締役会長・豊田章男さんによる社内研修(と記憶しています)の一場面の投稿(出稿者は不明)を拝見しました。その内容は、章男会長からの質問に対して管理職の方が「私の部下は・・・」と回答した時の場面でした。その管理職の回答に章男会長は真っ先に「その『部下』という言い方はダメです。あなた(その管理職の方)は会社から業務の責任を負う "役割" を任されているわけであって、その部署で偉い人というわけではない。」という趣旨の発言をされていました。まさにそのとおりだと思います。会社では役員・従業員全員に役割を分担しており、各部門・部署において透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みとしてガバナンス体制を構築しています。つまり役職は役割の名称であり、上下の区別のためのものではないということです。そして、その役割分担を明確かつ着実に遂行するガバナンス体制という「内部統制の具体化」のために規程・業務マニュアルが存在すると考えられます。そのように考えますと、規程・業務マニュアルを見ればその会社のガバナンス体制や内部統制に対する考え方が見えてくるとも言えますが・・・皆さんの会社はいかがでしょうか。ぜひ、このガバナンスの観点からも規程・業務マニュアルを再確認・再検討することをお勧めします。
今回はガバナンスと規程、業務マニュアルについて考えてみました。いろいろ考えてみると、規程、業務マニュアルは相当奥が深いものです。特にIPO準備期にある会社の皆さんは、規程、業務マニュアルを制定・改定する必要に迫られていることと思います。その分量が多い時に、苦し紛れにネット上で「〜規程_雛形」と検索してその雛形をそのまま流用したりしていませんか?また、何の規程・業務マニュアルをどこまで作成したら良いかわからず、つい「最低限必要な規程・業務マニュアルを・・・」と考えてしまうことはありませんか?私は、IPO準備にあたっての内部統制体制、コンプライアンス・ガバナンス体制の構築に「最低限は無い」と考えております。その会社の規模や業種など様々な要素によって各体制の規模、組織編成、規程・業務マニュアルの整備状況等はいろいろ違います。IPOを目指すときには、規程・業務マニュアルの確認・検討をIPO準備に入る前(できれば5年ほど前)から行なっていただくことをお勧めします。
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