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執筆者の写真長嶋 邦英

IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.18 - 規程と業務マニュアル④ -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。

 今回は、規程と業務マニュアルのひと工夫・その4です。





規程と業務マニュアル・何を書いている?

 これまでの記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.15 - 規程と業務マニュアル -」、「Part.16 - 規程と業務マニュアル② -」「 Part.17 - 規程と業務マニュアル③ -」で規程・業務マニュアルについていろいろ考えてみましたが、今回は少しだけ規程と業務マニュアルの具体的な内容について考えてみたいと思います。


 会社の内部統制は、社内規程等(*ここに業務マニュアルも含まれます)に示されることによって具体化されるものであり、その具体化こそが会社及び経営者の責任です。会社の内部統制を具体化するためにはいろいろな工夫があると思いますが、皆さんの会社ではどのような工夫をしていますか?例えば、定款を含む基本規程(取締役会規則、監査役会規程など)は基本的に関係法令に従った内容なのでネット検索で見つけた雛形条文をそのままコピペしたり、販売管理系の規程であれば同業界の他社規程の条文を参考にするなどして会社の事業内容に合わせるかたちにカスタマイズしたりしているのではないでしょうか。どのような工夫をするにしても、その会社に合ったものであれば良いかもと思います。ただし、その会社に合ったものにする前に、まずはそれぞれ規程と業務マニュアルに何が書いてあるのかをよくご覧になったことがありますか?


 規程と業務マニュアルに書かれている内容や条文は、決まったかたちがあります。

  1. 関係法令を遵守した内容・条文

  2. 会計基準等会計処理の原則に則る内容・条文

  3. 業務の一般的な慣行に則る内容・条文

  4. その会社固有のルール・習慣を組み込んだ内容・条文


 要素としてはこの4点になると思います。ここで1と2を別にした理由は、後ほど説明します。

 皆さんの会社の規程と業務マニュアルは、作成するにあたってはこの4つの要素を織り交ぜバランスよく整えていると思いますが、単に4つの要素を織り交ぜてバランスよく整えているものにすると、おそらく文字数が多く、分厚い規程と業務マニュアルが完成するでしょう。しかし、そのようなものを従業員の皆さんは十分に理解し、業務に活かすことができるでしょうか。書かれている内容や条文が関係法令に基づいているものなのか、その会社固有のルール・習慣を組み込んているものなのかが判別できなくなってしまうこともあります。最悪の場合、業務改善を検討する際に「面倒だ」、「二度手間だ」という理由で関係法令に基づいている業務や業務プロセス(PLC)のコントロール(一般/キー)の業務が消えてしまうということもあります。つまり従業員の皆さんにおかれては、規程・業務マニュアル全体を理解し、書かれている内容・条文の理由や根拠について理解を深めたうえで業務に活かしてもらう必要があると考えます。そのように考えると、規程・業務マニュアルを管理する部門や担当者は従業員の皆さんに十分に理解を深めてもらえるような内容・条文にすることをお勧めします。



規程・業務マニュアルの工夫①根拠を示す

 規程・業務マニュアルを作成・改定する際の工夫について、参考になる例をいくつか挙げてみます。一つ目は各条文に根拠を示すことです。根拠を示す理由は、①なぜその業務を行うのかを示すため。②今後業務改善等を行う際に変える/無くすことができるかどうかを区別するため。この2点です。

 ①なぜその業務を行うのかを示すためとは、例えばその業務が関係法令・会計処理の原則等に示されている定めを根拠としている場合は、その根拠法令等の条数等を示すというものです。これを示すことによって従業員の皆さんは「法令遵守のためにその業務を遂行する」と理解できますし、法令遵守が理由であればその業務を疎かにすることはないでしょう。契約書が重要書類であるのに、その契約書を粗末に扱う方はいないはずです。

 ②今後業務改善等を行う際に変える/無くすことができるかどうかを区別するためとは、よくある例としてPLCでコントロール(一般/キー)に設定しているにもかかわらずその業務が消えてしまったりすることがあるのでそれを防ぐためのものです。先の①につながりますが、例えば販売管理系の規程・業務マニュアルの場合は会計基準等会計処理の原則に則るかたちの内容・条文があるのですが、関係法令とは違い、会計処理の原則を知っている従業員の皆さんは少ないと思います。そのため、規程・業務マニュアルに「大切な業務である」旨を示しているにもかかわらずその業務が疎かになったり、業務改善等を検討する際に面倒くさい・リソース不足のために省きたい等の理由でその業務が消えてしまうということがあります。規程・業務マニュアルの各条文に根拠を示すことは、従業員の皆さんの法令遵守の意識を堅持してもらうことと健全で整然とした業務遂行の促進につながります。根拠を示さなくても社内研修や部内レクチャーですべて説明できる会社であればいちいち示す必要はありませんが、従業員の皆さんのコンプライアンス意識と業務品質の向上をお考えでしたら「根拠を示す」規程と業務マニュアルをお勧めします。



規程・業務マニュアルの工夫②フローチャートと対比させる

 工夫の二つ目は規程・業務マニュアルの内容・条文をフローチャートに対比させることです。内部統制をご存知の皆さんにとっては釈迦に説法かもしれませんが、よくあるのは規程・業務マニュアルとフローチャートを対比させるとフローにあるハズの業務が規程・業務マニュアルに無かったり、その逆もよくあります。代表的なのは稟議規程、決裁権限規程、印章管理規程等です。例として、PLCの受注フローを思い浮かべてください。


 PLCの受注フローでは、営業部門の担当者は見積書、契約書類(契約書、発注書等)を作成し、それをお客様に提示する前に上長にその内容の確認・承認決裁をもらうことになります。このとき対比させる規程は、稟議規程・決裁権限規程・印章管理規程などが挙げられますが、各規程の定めと業務の流れが合っていますか?決裁権限規程では見積(契約)金額によって承認決裁する上長(権限者)を定めていますが、それがフローチャートに示されていますか?最近では稟議をシステムで行うケースがほとんどだと思いますが、その権限者設定は決裁権限規程と販売管理に関する業務マニュアルに示していますか?合致していますか?規程・業務マニュアルに定めていなかったり規程・業務マニュアルと実際の業務が合致していないような悪いケースは、組織編成の変更が多い会社や従業員の流動性が高い会社で多く見受けられます。理由としてその変化・流動にシステムの設定変更が追いついていないというものです。また見積書、契約書類に電子印を押印する場合は印章管理規程とその関連マニュアルの適用範囲ですが、契約条件(取引条件)に関する決裁と契約書類への電子印押印決裁の承認決裁を行う権限者は同一なのか、又は別途稟議が必要なのか。その点を明確にしておらず関係規程に定めていないケースもあります。この点は不正行為の温床につながる可能性がありますので、皆さんの会社の業務の実情に合わせたかたちのルールを明確に定めて規程・業務マニュアルに示し、フローチャートを作成する必要がありますので、ご注意ください。また、そもそものお話しですが、この見積書、契約書類(契約書、発注書等)の承認決裁についても稟議規程の適用範囲であることもご注意ください。



 今回は規程・業務マニュアルの工夫(テクニック)をいくつかご紹介しました。これらはあくまでもテクニックで参考程度でお読みいただけたら幸いです。また各規程・業務マニュアルは、それぞれ根拠となる関係法令や規程等を定める意図、それに性質がまったく違うものです。部分的にでも皆さんのお働きの参考になりましたら幸いです。







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