IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、M&Aについてのひと工夫です。
会社の成長過程で通る道:M&A
会社が成長していく過程で、M&Aは外せない選択肢になりつつあります。今回このテーマを記事に取り上げる理由は、このような選択肢をIPO前後、特にIPO前にこれを選択して経営計画、中期計画に盛り込んだうえで上場する会社が多いと思いましたので、取り上げることにしました。これから皆さんと考えていく内容は、IPO前だけに限りません。IPO後の上場会社においても社内で十分に検討し、対策を講じなければならない内容になっております。
M&Aに関係する部門は内部監査・内部統制、法務ほか管理系部門だけに限りません。むしろ社内の関係部門・部署がそれぞれまたは部門・部署横断で一緒になって対策等を検討しなければならない内容だと考えます。そのため、今回の記事ではM&Aのひと工夫としては小さなひと工夫を、また別の記事で内部監査、内部統制、法務ほか管理系部門それぞれどのように捉えて、どのように対策を検討し、どのような施策が考えられるかを考えてみたいと思います。
M&Aのポイントはデューデリジェンス
会社が成長していく過程で、M&Aは外せない選択肢になりつつあると申しあげましたが、そのために上場会社ではM&A先において不祥事も多くなってきているのが現状です。直近(*この記事の公開は2024/08/18)にあった適時開示では、M&A先(海外子会社)において、取引先に対し不適切な支払いがなされた等不祥事が発覚し、これが原因で親会社(上場会社)の内部統制に重要な不備が発覚した事案がありました。当該開示資料を拝見しますと、不祥事発生の要因として当該上場会社およびグループ会社全体のリスク管理体制に問題があったことやガバナンス・コンプライアンス体制が不十分であったことを挙げておりました。要因を挙げるとすればそのとおりなのかもしれませんが、その要因の中にはとても大切なポイントが不足しているのでは?と感じました。それは「M&A時のデューデリジェンスに関する情報管理体制」です。直近の不祥事事例は、おそらくM&A時のデューデリジェンスで顕在的または潜在的リスクとしてすでに挙げられていたのではないかと想像します。理由は、海外の会社をM&Aする際は法務・リスク関連DDでまずその国の商習慣等を意識しますし、この事例では取引先に対する不適切な支出がなされていたとありますので、余程のことがない限り財務DDでその兆候が見つかっていたと考えられます。(*詳しくは後日、別の記事で取り上げます。)
今回なぜM&Aのポイントにデューデリジェンス(以下「DD」といいます)を挙げるのかといいますと、DDによって作成された資料は、M&Aの事前準備段階/M&A作業中・M&A先会社との交渉/自社傘下に組み入れた後に大きな影響を及ぼすものだからです。
それでは、このDDに関するひと工夫をご紹介します。
【ひと工夫1】M&A事前準備段階で
皆さんもご存知のとおり、M&A事前準備段階において必ずDDを行います。行うといっても、これを自社で行うというよりはM&A仲介会社等に代行を依頼するのが一般的かと思います。またDDには財務、法務、人事、事業、IT、セキュリティ等の種類がありますが、財務DDは公認会計士・税理士の先生方が、法務は弁護士の先生方など、DDを専門領域とされている先生方もいらっしゃいますのでその専門に合わせて個別に依頼することもあるかと思います。どのような形でも構いませんが、ひと工夫としてはこの事前準備段階でもかなり早い段階でDDを行うことをお勧めします。理由は次のとおりです。
より正確な情報を求めるならば、DDに時間を掛ける必要があるため。
DDによってM&A予定先において何らかの問題を発見した場合でも、その問題を精査して買収の可否を判断するためのより正確な情報を収集するため。
傘下組み入れ後の親会社におけるリスク・コンプライアンス管理の情報として利用すべく、より正確な情報を必要とするため。
DD結果報告資料は大変貴重であり重要な資料です。そのため、より正確な情報に基づくものでなければ信用できません。M&Aの予算と期間との兼ね合いになりますが、DDに掛ける時間を惜しまないようにすることをお勧めします。なお、2はM&A作業中・M&A先会社との交渉に、3は自社傘下に組み入れた後につながる理由になりますので、このあと説明します。
もうひとつ、このDDを依頼するにあたっては、どのような情報を求めているのかをDD依頼先に伝えることが重要です。DDはM&A先の会社の財務、法務、人事、事業、IT、セキュリティ等について調査し、M&A先の企業価値を検討するための材料を収集してもらうことが目的ですが、全方位を調査し尽くしてもらうことはとても困難ですし、調査にかかる時間と費用がとても掛かります。そこで、調査について効率と効果を求めるのであればその調査範囲やポイントを絞り込むことが重要になります。DDの依頼を受ける側もこれについて聞いてくるので、いろいろ相談してみてください。
【ひと工夫2】M&A作業中・M&A先会社との交渉とDD資料
DD結果報告資料を入手すると、買収元となる会社ではその内容を確認し、交渉のための検討、資料作成等を行いますが、DD結果報告資料の入手が早ければ早いほど交渉のための検討に十分な時間を掛けることができます。これは買収元の会社にはとても有利です。
DD結果報告資料を入手することでよくあることは、DD結果によってM&A予定先において何らかの問題を発見することです。この問題と言っても大小様々あり、それらを精査することによってグループ傘下に組み込むことに影響があるか否かを十分に検討する必要があります。問題が大きいからといって直ちに買収不可となるとは限りませんし、逆に問題が小さいとはいえ企業経営的に芳しくない事案であるならば買収不可とするか、または改善したのちに傘下に組み入れるという選択もできるかもしれません。会社にとってどのような選択ができるのかを検討するためにも、精査するためのDD結果報告資料は優れた資料でなくてはなりません。優れた資料が欲しいのであれば、許される限り時間を掛ける必要があるという考えとなります。
【ひと工夫3】自社傘下に組み入れた後も
DD結果報告資料は、自社傘下に組み入れた後も重要な資料となることをご存知でしょうか。DD結果によってM&A予定先において何らかの問題を発見することが多いのですが、それらの問題は買収元会社としてはリスク管理の観点で内容を精査し、対策を講じることでそれらの問題を解消または低減させる必要があります。このM&AがIPO前や準備期間中/IPO後の上場会社であればなおさらです。問題の精査と対策を社内で検討し講じるときDD結果報告資料が必要となります。このようにDD結果報告資料が自社傘下組み入れ後にも重要な資料となるのであれば、なおさらDD結果報告資料は優れた資料でなくてはなりません。優れた資料が欲しいのであれば、許される限り時間を掛ける必要があるという考えとなります。
このM&AがIPO前や準備期間中/IPO後の上場会社の場合、会計監査人である監査法人からDD結果報告資料の提出を求められ、そこで指摘されている問題/リスク/改善が必要な事項が挙げられていれば、監査法人はその解消/低減/改善状況がどのようになっているのかが知りたいでしょう。問題の大小に関わらずその問題を解消/低減/改善したのちに傘下に組み入れたら、監査法人はその内容を把握したうえで上場会社の会計監査と内部統制監査を行います。そのため買収元会社はこれを説明する責任があるのです。このようなわけで、DD結果報告資料は、自社傘下に組み入れた後にも重要な資料となるのです。
DDについては、M&Aの期間と予算には限りがありますが、許される限り時間と費用を掛けDD依頼先と十分相談・協議したうえで、優れたDD結果報告資料を入手することをお勧めします。
今回の記事ではM&Aの小さなひと工夫をご紹介しました。会社が成長していく過程で、M&Aは外せない選択肢となったことで、内部監査、内部統制、法務ほか管理系部門それぞれどのように捉えて、どのように対策を検討し、どのような施策が考えられるか。次回以降の記事で、皆さんと一緒にいろいろ考えていきたいと思っております。
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