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  • 執筆者の写真長嶋 邦英

IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.10 - 内部通報制度 -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。

 今回は、内部通報制度についてのひと工夫です。






内部通報制度の意義とは

 皆さんの会社では、内部通報制度をどのように行っているでしょうか。

 上場会社のほとんどは内部通報制度を整備していると開示していますが、その運用状況としては適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で見かける不正行為等不祥事の発覚の発端となったという内容を見る程度だと思います。


 他社ではどのように内部通報制度を運用し活用しているかというと、その状況はJPX日本取引所グループで公開されている「不祥事予防に向けた取組事例集」(2019年11月)(以下「不祥事取組事例集」といいます)に掲載されています。これを読んでみますと、意見交換会に出席された各社の不祥事予防に向けた取組みと内部通報(不祥事取組事例集では「通報」と記述)の運用に難儀されている状況がわかります。内部通報制度の運用に苦労されているのは、皆さんの会社だけではありません。ご安心ください。


 それでは、この内部通報制度を、なぜ整備しなければならないのでしょうか?

  法律で定められているからでしょうか?

  上場するにあたって整備しなければならないルールだからでしょうか?


 今回は内部通報制度の意義を、わかりやすい資料を参照しながら考えてみたいと思います。参照する資料はこちらになります。



 内部通報ガイドラインに、内部通報制度の意義をこのように示しています。

Ⅰ.内部通報制度の意義等 1.事業者における内部通報制度の意義  公益通報者保護法を踏まえ、事業者が実効性のある内部通報制度を整備・運用することは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与し、消費者、取引先、従業員、株主・投資家、債権者、地域社会等を始めとするステークホルダーからの信頼獲得に資する等、企業価値の向上や事業者の持続的発展にもつながるものである。  また、内部通報制度を積極的に活用したリスク管理等を通じて、事業者が高品質で安全・安心な製品・サービスを提供していくことは、企業の社会的責任を果たし、社会経済全体の利益を確保する上でも重要な意義を有する。

(出典:内部通報ガイドライン3ページ)


 内部通報といえば、一般的には不祥事の予防と早期発見・是正のための手段・活動と理解されていることが多いでしょう。内部統制の全社統制(CLC)・42項目にも統制項目「内部通報制度の設置状況」がありますので、非常に大切な体制構築です。

 不祥事取組事例集をみますと、社内のコンプライアンス等の違反行為に関する情報収集の手段として用いられている例がありますが、いろんな壁に阻まれているようです。


 不祥事のなかでも、例えばハラスメントの場合は、被害を受ける側の心理として他の社員が多数いる状況等で加害側(上司等)を糾弾することは難しく、通報するなら内部通報窓口にするというケースが多数だと思います。それでは業務上の不祥事ならどうでしょう。業務上の不祥事の場合は、いきなり内部通報窓口へ通報する前に、まずは上司・部門長に報告するというケースの方が多いのではないでしょうか。その理由として、まずは所属部門内で調査をしたうえでその不祥事の内容を確認するとか、上司、部門長としても自らの業務範囲内の汚点を公にしたくないという考えで部門内で処理したいとか、いろいろあると思います。ただ、このような対応だと「組織の自浄作用の向上」を行っているだけで、その会社のコンプライアンス推進や、会社が高品質で安全・安心な製品・サービスを提供していくという社会的責任は果たされていないかもしれません。


 内部通報制度は、窓口を設置する等のカタチを作るだけでは内部通報制度本来の意義を全うすることは難しいです。カタチを作ると同時に、そのカタチの意味と運用方法をしっかりと整備して社内に周知し、従業員の皆さんに理解・浸透させるまでを行うことが非常に大切なことだと考えます。


 それでは、どのような内部通報制度がより良いカタチとなるのかを考えてみたいと思います。



【ひと工夫1】内部通報制度を浸透させる

 皆さんの会社では、この内部通報制度に関する社内教育をどのように実施していますか?単に「内部通報窓口があります」を周知するだけでは社内教育にはなりません。皆さんの会社の内部通報に関する規程にも、内部通報制度の理解を深める旨の条文があると思います。「理解を深める」のですから、理解しているだけではなく、その理解を実際の運用にまで深めてもらう必要があります。このように考えると、皆さんの会社の内部通報制度はどのような方針を持ち、どのような体制・運用(実際の情報の流れ、対応方法、最終的な結果まで)であるかを、できれば実例を挙げて説明することをお勧めします。先にご紹介した不祥事取組事例集などを参考にして他社事例を紹介することでも良いと思います。


 従業員の皆さんは、会社に内部通報制度が有ると理解しても、どのように運用しているのか。実効性があるのかがわからなければ、その制度を利用しとうとは考えないでしょう。実効性があるのか。その実効性はどのような効果(影響)をもたらすのか。従業員の皆さんの立場からすれば、自分の会社が内部通報制度をしっかりと説明できる会社だったら、なんと心強いことでしょう(参照:内部通報ガイドライン5-6ページ)。



【ひと工夫2】内部通報の流れを複数にする

 皆さんの会社の内部通報窓口は、もちろん社内・社外の2つと思います(社内窓口は管理系部門等/社外窓口は弁護士事務所等)。今回ご紹介する「内部通報の流れを複数にする」とは、この社内・社外窓口のことではありません。社内・社外窓口は窓口としては2つですが、内部通報を受けた会社側での情報の流れは1つです。そのため従業員の皆さんの立場から見れば、内部通報した後の運用と実効性に疑問を持つことになってしまいます。

 例えば、社長等経営層の数名が不祥事に加担している場合、内部通報を受けた会社側での情報の流れが「窓口>管理系部門長>社長または取締役会」となっているとき、従業員の皆さんはその不祥事を内部通報するでしょうか?おそらく悶々としながら押し黙ってしまうか、見て見ぬふりをすることになるでしょう。これでは内部通報制度の意義は全うできません。そこで「内部通報の流れを複数にする」をお勧めするものです。


 具体的には、窓口をダイレクトレポートのかたちにする方法です。社内では社長・取締役会・監査役(会)・監査等委員(会)がダイレクトに内部通報を受け付けるというもので、ここに内部監査を入れるのも良いでしょう。内部通報する側としては、その不祥事(または未遂)が一刻も早く調査され解決することを望んで通報します。不祥事の早期解決・是正は、内部通報ガイドライン、予防プリンシプルにも掲げている目的です。会社はその目的を果たすように内部通報体制を構築しなければなりません。


 また、よく見かける方法として、内部通報の内容(業務上、経営上、ハラスメント等)によって窓口を分けている方法があります。この場合、その不祥事の内容が明確に判別できるものであれば良いのですが、そのいずれの要素にも当てはまるような内部通報の場合は、通報する側としては窓口に迷ってしまうことも考えられます。あまりお勧めできないものとなります。



内部通報制度の大目的は、企業価値の向上

 内部通報制度のひと工夫は、ほかにもいろいろあると思いますし、いろいろあって良いと思います。なぜなら、内部通報ガイドラインにもありますとおり、「事業者が実効性のある内部通報制度を整備・運用することは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与し、消費者、取引先、従業員、株主・投資家、債権者、地域社会等を始めとするステークホルダーからの信頼獲得に資する等、企業価値の向上や事業者の持続的発展にもつながるもの」だからであり、その企業価値はそれぞれの会社ごとに違うものだからです。


 皆さんの会社の内部通報制度がより良いものに構築できましたら、その内部通報制度は単に不祥事の予防と早期発見・是正のためだけでなく、組織の自浄作用の向上ひいては会社の経営と業務の品質を向上させることに繋がり、これが企業価値となってかたちに表れるものと考えます。ただし、そのようなかたちに表すようにするには、相当な期間を要します。一朝一夕は難しいです。社員教育と並行して推し進めていくことをお勧めします。





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