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  • 執筆者の写真長嶋 邦英

IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.05 - 社内教育「内部統制」のひと工夫 -

 IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。

 今回は、社員教育「内部統制」のひと工夫です。








社内教育はIPO/上場維持の重要要素です

 最近、多くの会社では社内教育が重要視され、教育コンテンツも大変多くなりました。その要因の一つは、2022年04月からすべての会社を対象としてパワーハラスメント防止措置が義務化されたことがきっかけで、社内教育する必要に迫られたことにあります。


 上場会社においては、このパワハラ以外にも上場関連で社員教育しなければならない教育項目があります。それはインサイダー取引と内部統制です。IPOの際には、主幹事証券会社からこの2つの教育項目の教育実施を指導された/受講した記憶がある方もいらっしゃるでしょう。このインサイダー取引と内部統制に関する社内教育ですが、どのような内容だったか覚えていますか?特に今回は、内部統制に関する社内教育について、そのひと工夫をご紹介します。



【社員教育のひと工夫・1】「内部統制」は入り口が難しい

 内部統制の社内教育は、入り口が難しいです。入り口とは、会社の従業員の皆さんに内部統制に関するレクチャーを行う際の、話の導入部分(落語では「マクラ」の部分)です。内部統制の話には、コンプライアンス(法令遵守)やガバナンス(企業統治/統制)の要素が色濃く出ますので、話の導入からコンプライアンス、ガバナンスと言い出すと、受講する側の従業員の皆さんは一気に " 睡眠モード " に入ってしまいます。これは避けたいところです。では、どのように話し始めたら良いでしょうか。これについては以前の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.06 - 従業員にとっての内部統制 -」でご紹介しましたが、まず「会社が内部統制をする目的」から話し始めることをお勧めします。


 受講する従業員の皆さんは、その受講自体「業務(仕事)の一環」として受講しています。業務/仕事ですから「なぜこれ(業務/仕事)をするのか?」の目的を知りたいと思うのは、もちろんのことです。そのため、まずはレクチャーの冒頭でその目的を知る/知らせることで、従業員の皆さんに「有意義な時間だ」と理解してもらい、受講意識を高めた上で受講していただく必要があるでしょう。さらに言うと、そのレクチャー内容を踏まえて従業員の皆さんに内部統制のルールを業務上守ってもらう必要があり、守ってもらうことで自分(従業員)も会社も価値が向上することを伝えることが重要なのです。


 みなさんご存知のとおり、内部統制の目的は①業務の有効性及び効率性、②報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等の遵守④資産の保全の4つです(参考:「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」金融庁/企業会計審議会)。上場会社はこの4つの目的のため、内部統制体制を構築し、規程等ルール等を整備して忠実にこれを運用し続けます。この「運用し続ける」ことで、ステークホルダーから会社への信用・信頼度は上がり、これに伴って企業価値は上がります。逆に、運用し続けられない・不祥事が発生した会社は、ステークホルダーからの信用・信頼を一気に失います。まずは、このことを従業員の皆さんにお話しする必要があるでしょう。

 レクチャーの導入部分から、いきなり怖い話をすることになってしまいますが、しかし、会社が従業員の皆さんに対して「なぜ内部統制のレクチャーをするのか?」という大目的をまず先にお話ししなければ、聞く側の姿勢と聞くことの目的意識が曖昧になってしまいます。内部統制のレクチャーは、とても難しく奥の深い内容です。話す時間も長くなります。途中でウンザリされないよう、よく理解してもらえる、気長に聞いてもらえるレクチャーの時間となるように心掛けましょう。



【社員教育のひと工夫・2】レクチャーは年1回・いつ実施するか?

 私はこれまで数社の内部統制に関するレクチャーを行って参りましたが、主催する管理部門のご担当者からよく聞かれるご質問があります。「(会社としては)内部統制のレクチャーをいつ実施するのが適当か?」です。


 私がお勧めするレクチャーの実施時期・タイミングは、事業年度の初月です。決算期が03月であれば04月です。会社によっては、事業年度の初月は会社の恒例行事や新卒社員の入社、繁忙期である場合もあるでしょう。ですが、事業年度の初月だからこそ、内部統制のレクチャーを実施する意味があります。理由は次のとおりです。


<事業年度の初月に内部統制のレクチャーを実施する意味>

  1. 内部統制上のルールをよく理解したうえで、事業年度がスタートできる。

  2. 内部統制上のルールが改訂されている場合もあり、社歴が長い/浅いを問わず全従業員が同じ心構えで受講できる。

  3. このレクチャーを踏まえて、内部統制の整備評価が実施できる。

  4. 新卒社員に「会社のルールがある」(*学校とは違う)の意識を持ってもらうことができる。   など


 一つ目の「内部統制上のルールをよく理解したうえで、事業年度がスタートできる」は、会社としては非常に有意義です。どのような業務にもルール(業務マニュアル等)があり、そのルールには少なからず内部統制の要素が入っているものと考えます。社歴の浅い/異動したての従業員にとってはルールを学ぶ良い機会であり、社歴の長い従業員にとっては普段何気無く行なっていた業務の流れの再点検ができる良い機会です。ちにみに、この「業務の流れの再点検ができる」というのは、内部統制では大変重要です。内部統制の目的に「業務の有効性及び効率性」がありますので、常に業務の効率性を向上させることが必要だからです。皆さんの会社で、数年前に決めたルールが見直しもされずにそのまま機械的に行われている業務がありませんか?その見直すきっかけ作り、または見直す意識を持ってもらうよいきっかけ作りとして、内部統制のレクチャーを使っていただきたいです。


 二つ目の「内部統制上のルールが改訂されている場合もあり、社歴が長い/浅いを問わず全従業員が同じ心構えで受講できる」ですが、内部統制の評価者の皆さんはよくご存知のとおりで、内部統制上のルール等を期中に変更することを避け、変更するなら期初に合わせて変更します。よくある例として、会計システムの新規導入や変更・入替えを期初に合わせて行うというものです。内部統制の整備/運用評価の際、内部統制上の大幅な変更があったとき、それが期中であっても期末に近い場合であっても整備評価からやり直しになりますので、会社としては事業・業務遂行のうえで大きな影響を受けます。そのため、上場会社では内部統制上のルールの変更は期初に合わせるのが一般的です。このことを踏まえると、やはり社歴が長い/浅いを問わず全従業員が同じ心構えで受講できる時期は、期初・事業年度の初月になります。これに新卒社員の皆さんも加わり横並びで受講するとなれば、社歴が長い/浅いを問わずフレッシュな雰囲気のレクチャーになるでしょう。


 三つ目の「このレクチャーを踏まえて、内部統制の整備評価が実施できる」は、評価の対象となる各業務プロセスの業務担当者にとっても有意義であることは間違い無いのですが、特に内部統制の評価者に有意義な点です。なぜなら、評価前の業務フロー確認と証憑提出依頼の際に、評価者と確認/依頼先業務担当者とで共通言語でお話しすることが可能だからです。私もそうですが、評価者は監査専門用語を使いますが、その用語がどのような方にも共通している用語・言語ではありません。ヒアリングの際も、社歴の長い方ばかりではありません。かといって、違う言葉に言い換えることは、誤解を招く可能性があります。やはり、事前のレクチャー等で用語・言語を共通認識させておくことは、必要不可欠と言ってもよいかと考えます。


 なお 前述のとおり、内部統制のレクチャーを実施するタイミングについては次の事業年度が始まる前の月(当期事業年度の期末前)に実施することも考えられます。それは、次の事業年度に向けて影響度が大きく、高めのルール変更等があるケースです。このケースは、例えば内部統制のルール等が全社的に影響度が大きい(全社員が対象、など)ときは有効です。そのほか会社の恒例行事や繁忙期であるとか、いろいろ状況があると思いますので、良いタイミングで内部統制のレクチャーの実施をご検討ください。



内部統制は「覚える」→「慣れる」を手順よく

 内部統制をよく知っている皆さんは、もうご存知でしょう。内部統制は整備状況と運用状況の両方を評価するもので、そのどちらかでも不適合または不備であったときは改善する必要があります。整備と運用のどちらも重要です。社内教育はあくまで「座学」ですので整備の話がメインになりがちで、運用はそれぞれの部門・部署が指導していくことになります。しかし、仮にそうであったとしても、会社がそれぞれの部門・部署に任せっぱなしにしてしまうことをお勧めしません。内部統制の4つの目的は、その会社が達成すべき目的であり、それぞれの部門・部署がバラバラに目的達成するものではないからです。運用をそれぞれの部門・部署に任せっぱなしにしてしまうと、その教育の仕方や分量、理解度でムラができます。そのムラは、事業・業務遂行上の支障が生じる原因になります。これも会社としてのリスクです。内部統制レクチャーでは、そのムラを低減させ、それぞれの部門・部署での運用に関する教育にうまく導入移行できるような内容のレクチャーが求めらると考えます。


 業務自体の手順は「習うより慣れろ」と教育することが多いかもしれませんが、内部統制については「覚える、そして慣れる、これを手順よく」このように理解していただけたらと思います。



 今回は内部統制に関する社内教育についてご紹介しました。この時期(*2023年12月掲載)にこのような内容をご紹介した理由は、皆さんの会社の " 次の事業年度を迎える前 " にはこれをよく検討していただき、来たる2024年04月J-SOX改訂の完全施行に間に合っていただきたいためです。皆さんの会社では、すでにJ-SOX改訂版に適合した整備は進んでいるものと推察しますが、内部統制はやはり従業員の皆さんのご苦労を伴った業務(運用)の完全遂行がカギを握っています。整備だけでは「仏を作って、魂を入れず」になりかねませんので、ぜひ運用の「覚える、そして慣れる、これを手順よく」を実践していただけたら幸いです。





当社が提供するサービスとして


当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、


  1. IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)


 この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。



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