IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、コンプライアンス委員会設置のコツについてです。
コンプライアンス委員会の立ち位置
IPO準備会社、上場会社に欠かせない体制構築/維持といえば、例えば内部管理体制、内部統制体制などがあります。そのひとつに「コンプライアンス委員会の設置」があります。
まずはじめに、コンプライアンス委員会を設置する根拠をご存じでしょうか。
これは会社法第362条5項及び会社法施行規則第100条1項4号を根拠としております。つまり会社は、会社法を遵守して「内部統制システムの基本方針」を策定し、これにコンプライアンス体制を整備している旨を宣言したうえで、その運用状況を監視・確認する機関としてコンプライアンス委員会を設置するという流れです。なお会社法ではこの設置義務を「大会社である取締役会設置会社(資本金5億円以上または負債額200億円以上)」としておりますが、IPO準備する会社は主幹事証券会社から、そのIPO準備会社の規模等に関わらず必ずと言って良いほどこの設置を指導されますので、これを踏まえた取締役、監査役の構成などをお考えいただいた方がよいかもしれません。
このコンプライアンス委員会の構成メンバーは各社多様です。常勤+非常勤(社外)取締役+監査役や社外取締役(監査役を含む)のみ、またはこれに執行役員、部門長を加えたものや、外部有識者を加えたものなどがあります。具体的な構成メンバーはどのような方でもまったく問題無いと考えますが、その会社のコンプライアンス委員会の設置意義やその立ち位置などを考慮したかたちの構成メンバーであることが望ましいでしょう。そのためにも、このコンプライアンス委員会の立ち位置は、非常に重要な意味を持つことになるのです。
前述のとおり、会社にコンプライアンス委員会を設置する前に、まずはその会社のコンプライアンス委員会の設置意義やその立ち位置を設定することをお勧めします。理由は、このコンプライアンス委員会の設置意義やその立ち位置の設定が無いまま闇雲に設置しても、社外のステークホルダーからの評価は芳しくないものになってしまうからです。
ここで重要なのは「立ち位置の設定」になります。内容としては次のとおりです。
誰をメンバーとするのか?
何をするのか?
どのような権限があるのか?
上記3点のうち、2と3がメインとなります。
コンプライアンス委員会の立ち位置【何をするのか?】
この「何をするのか?」の設定は、その会社の経営方針、経営・事業に対する姿勢が表れると言って良いと思います。例えば、不正行為が発生したときの原因究明や再発防止策の策定および情報開示に関する審議などを行うとした上場会社。また、コンプライアンス委員会のほかに連携する部門としてコンプライアンス部門があり、そのコンプライアンス部門はコンプライアンス教育を実施したり、内部通報窓口とその内部通報情報の調査の機能を持つなど多種多様です。しかし、このコンプライアンスについて真剣に取り組んでいる会社には共通点があります。それは、各社の内部統制システム基本方針やコーポレート・ガバナンス報告書等にコンプライアンス委員会(またはこの性質・機能を持った委員会、部門、所管役員等)の役割を明記して公表していることです。この公表によって、その会社のコンプライアンス体制及びコンプライアンス姿勢を明確にしているのです。ステークホルダーから見たら、頼もしい姿を見ることができるのです。
もうひとつ。よくあるケースとして、リスク管理とコンプライアンスの要素を合わせ持った委員会(例:リスク・コンプライアンス委員会)を設置しているケースですが、それぞれの役割と性質・機能が違うものなので、業務量が膨大・過多になります。そうなると肝心なところで見逃し/抜け漏れのリスクが出てきます。見逃し/抜け漏れが許されない立ち位置ですので、会社の規模や事業内容、業界等社会状況などを考慮したうえでその設置を検討することをお勧めします。
コンプライアンス委員会の立ち位置【どのような権限があるのか?】
皆さんの会社では、コンプライアンス委員会は「社内のコンプライアンス状況の監視結果の報告会」になっていませんか?いざコンプライアンス違反が発生したときは、取締役会等でその調査等の対応や処分の決定、再発防止策を講じるので、コンプライアンス委員会はコンプライアンス状況の監視機能だけという会社もあるかと思います。しかし、最近のコンプライアンス違反の事例では、代表取締役社長による他の役員、従業員に対するハラスメントや役員主導による会計・経理処理上の不正行為などが多く、そうなると取締役会のメンバーがそのコンプライアンス違反の当事者となり、当該違反の調査実施や、そもそもその当該違反の実態を隠すことさえ可能であるように見えてしまいます。これはその会社のステークホルダーとしては「企業価値を損いかねない」ものとして見ることでしょう。
そこで、このコンプライアンス委員会に実効性を持たせるには、役割(何をするのか?)に権限を持たせることです。前項の事例で、「不正行為が発生したときの原因究明や再発防止策の策定および情報開示に関する審議などを行うとした上場会社」とご紹介しましたが、まさに不正行為の原因究明(調査権限)と再発防止策の策定の権限が与えられているのです。(*情報開示については、いわゆる発生事実の適時開示基準に該当しますので、取締役会の決議事項になります。)この権限の付与はとても強力ですし、ステークホルダーからも実効性があると評価を受けることでしょう。
ここまで説明したうえで、やっと立ち位置の1になります。
コンプライアンス委員会の立ち位置【誰をメンバーとするのか?】
コンプライアンス委員会の役割(何をするのか?)と実効性を持たせるための権限付与を見てきました。こうしてみると、この役割と権限に相応しいメンバーが選任できると考えます。コンプライアンス(法令遵守)なので、法律の専門家が良いとか、専門知識等を有する有識者でなければならないとか、そのようなことはありません。コンプライアンス委員会の役割を十分に担える行動力と与えられた権限を下せる判断力を持った方が、このコンプライアンス委員会のメンバーに相応しい方です。
合わせて、役割を十分に担うためには行動力が必要ですが、メンバーが少人数の場合、その行動範囲や時間等の量に限りがあります。これを補うためには、部門長か各部門からコンプライアンス担当を選抜してこの方々をメンバーにするとか、人員的・資金的に余裕があればコンプライアンス部門を設置するなどの方法があります。しかし、このような方法は、先のとおり人員的・資金的に余裕がある会社であればお勧めですが、各部門からコンプライアンス担当を選抜するケースは、その担当者は本来業務と兼務することになりますので業務配分が難しいです。どのような方法を選ぶにしても、十分に検討してお選びください。
コンプライアンス委員会設置で必要なこと
改めて、コンプライアンス委員会を設置する際に必要なことは、会社の経営方針、経営・事業に対する姿勢を踏まえたかたちのコンプライアンス委員会の設置意義やその立ち位置を設定することです。この設定がしっかりしていれば、コンプライアンス体制は盤石であり、万一不正行為など不測の事態が発生したとしても、迅速で合理的な対応が可能となり、適切かつ効果的な再発防止策等を講じることができます。
もうひとつお勧めの方法があります。それは、このコンプライアンス委員会のメンバーに、内部監査担当者・責任者と内部統制評価者を加えることです。 理由は、まず内部監査は通常業務として日常的モニタリングを行いますので、コンプライアンス委員会による監視と並行してJ-SOXにある「非財務報告」の正確性、適正性を確認することができます。これによって手厚いカバーが可能です。 また内部統制評価者としては、整備/運用評価の際に有効な情報を入手することができます。これによって整備/運用評価の精度が上がりますので、J-SOXにある「財務報告」の正確性、適正性を確認することができます。 逆に、これらによってコンプライアンス委員会の役割、運営の実態としても実効性が保たれますので、高いレベルでの会社のコンプライアンス体制を維持できるのではないでしょうか。
コンプライアンスは上場会社だけでなくすべての会社に求められますが、その方針・体制の内容や構築の仕方などに「決まった方法」はありません。また基準などがありませんので、どの程度のレベルの体制を作らなければならないのかも決まっていません。それらは全部、皆さんの会社に任されています。そのため、皆さんの会社では体制構築の段階で大いに悩み、体制維持の段階でもその悩みが続きます。でも心配しないでください。どの会社でも悩みますし、その悩みは続くものなのです。「正解」はありません。
ぜひ皆さんの会社で「The 当社のコンプライアンス体制」を構築し、その体制やルールだけでなく、役員、従業員の皆さんにコンプライアンスを十分に浸透させて、日々の業務にコンプライアンスの姿勢と実効性のある業務遂行をしてもらいましょう。
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IPO準備中企業のCorporate部門の業務内容の確立をサポート支援いたします。
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この機会に、ぜひCorporate部門のあり方、必要性をご理解いただき、Corporate部門の業務体制構築/再構築、業務支援をご検討ください。
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