「管理系部門がIPO準備でやること」について、数回に分けて説明・ご紹介しています。前回は「管理系部門がIPO準備でやること Part.09 - IT・情報システム編 その3/情報セキュリティとISMS -」を説明しました。
今回は、「総務編/参謀・バディとして」です。
(*着手する順序は時系列ではないので、その点はお許しください。)
(*約8分程度でお読みいただけます。)
総務の存在で会社の “ 持ち味 ” が決まる
今回は総務について説明します。
最近では、総務の役割、総務の存在そのものが無い会社も多いかも知れません。その理由として、①業績等の価値を直接的に生み出す部門・部署では無いこと、②主業務が見えにくい、③逆に “ 誰もができそうな業務 ” と見られてしまう傾向にあり、その個人としての成果が見えにくい、などではないでしょうか。
一般的に総務の業務内容としては、営業、経理など各業務以外の、これらに属さない業務を担当することとなっており、業務量は多いのですが、中でもいわゆる雑多な業務の方が目立つこともあって、周囲からは「誰でもできる業務」であると認識されてしまいます。
しかし、振り返ってみると、総務を担当している皆さんには、才能多彩な人材がいらっしゃることにお気付きでしょうか。
例えば、登記簿謄本(全部/現在事項証明書)の取得や商業登記関係の申請書等書類の法務局への提出などを総務が行なっている場合、商業登記関係の業務に強くなり、のちに司法書士になる方がいたり、会社所有の不動産関係の管理を担当している場合、設備等不動産管理関連業務に強くなり、宅建士など不動産関連資格を取得される方がいるなど、または、すでにそのような資格を取得したうえで総務業務を担当している方が多いです。私も、総務・法務の業務経験を深めていったことから、行政書士の資格を取得しております。
また、マンガ「総務部総務課山口六平太」のような、柔軟で温和な主人公が、会社内の諸問題を解決していく・・・このような個性的なですが、とてもひと口では言い表せない才能を発揮して社内を見渡していく、このような方も実際にいらっしゃいます。このような人材が総務に居るだけで、会社内は安定し、営業部門などは業績向上に注力できる。そのような会社は、社内にいても安心して働けますし、業績もしっかりと積み上げることができるのではないでしょうか。
さて、話をIPO準備期に総務がやることに目を向けましょう。
IPOの準備タスクにおいて、総務がメインメンバーとして割り当てられるようなタスクは、ごくわずかであると考えます。これはやるべき役割が無いわけではなく、どちらかと言うと総務は、どのタスクにおいてもメインメンバーのバディ(相棒)として必要なメンバーという立ち位置の方が相応しいからです。その理由は、これまで経理、法務、人事、知財管理、情報システムの各業務担当について説明してきましたが、いずれの業務担当においてもその業務範囲(守備範囲)に止まらず、他の業務担当との接点、重複している範囲が必ずあります。この場合、それぞれの経験や知識が深い担当はその業務範囲については強みがあると考えますが、他の業務担当との接点、重複している範囲についての役割分担や抜け漏れ防止のための調整役、連絡役としては十分に機能しないことがあります。やはり業務範囲とその分野での専門家である意識が強い方々ですと仕方ないかもしれません。
このようなとき、他の業務担当との調整や助力を必要とした場合の支援要請などの調整役・連絡役としては、バディである総務に任せるのが最適です。なぜなら、総務は普段から会社内全体を見渡していて、どの部門・部署がどのような役割を担当し、どのような情報を持ち、細かく言えば、その社員はどの社員と仲が良いなど、社内事情をよく知っており、総務はうってつけの人材だからです。
総務は全社を見据えた “ 参謀 ”
調整役・連絡役として総務が最適任である、と説明しましたが、これは、現場に関する情報収集や各準備タスクとの連携調整、さらには経営者層の考えなどを十分に踏まえたうえで様々な状況に対応する行動を起こすことができる、という点でも総務が最適であると考えるからです。
このような行動の要素がなぜ必要なのかは後ほど説明しますが、軍隊で例えますと、このような考え方と行動を必要とする役割は「参謀」です。
参謀というと、戦国時代の軍師というような、軍略を指揮官に教授して、常に指揮官の隣に座っている、というイメージがあるかと思いますが、実際には、軍事作戦の指揮統制に関する情報の収集や情報処理・対応について指揮官に助言し、自らも行動し、必要に応じて他の部隊との連絡・調整にあたるなどして、指揮官を補佐する役目を負っています。会社を軍隊に見立てるわけではありませんが、総務は普段から会社内全体を見渡していて、どの部門・部署がどのような役割を担当し、どのような情報を持ち、どのように連携すれば業務が順調に進捗し、タスク完結を迎えられるかを静かに把握し、処理できるので、そういう意味では、総務は “ 参謀 ” に当てはまります。また、前項の説明で、総務には才能多彩な人材が多いことから、経理や情報システム担当などの極めて高度な専門知識を有する、とまではいかないにしても、広い専門 “ 的 ” 知識を使ってメインメンバーを補佐し、ときには代役を務め、他の業務担当との調整が必要なときは状況に応じて連絡・調整を行うなど、行動にもその多彩ぶりを発揮してもらえるのです。
ただし、誤解していただきたくないのは、総務の人材は才能多彩な人材であるがゆえに、よく言われる「何でも屋さん」的な扱いをされては困ります。IPO準備にあたっての総務の役割は「参謀」であり、常にIPO準備タスク全般を広く見渡し、状況に応じて連絡・調整や自らも行動することが求められる役割を担っていただきたいのです。これがもし、何でも屋さん的に、いずれかの準備タスクのヘルプ要員として当てられてしまうと、全体を見渡すことができず、他の業務範囲で抜け漏れが発生しても、総務が臨機応変にその対応をすることが難しくなってしまいます。
総務の人員が複数名在籍しているような会社は少ないと思います。そのような貴重な存在である総務の人材を、フルに使い倒すような扱いはしないでいただきたいと考えます。
総務の皆さんに心得ていただきたいこと
さて、ここからは、総務の皆さんに、IPO準備にあたって心得ていただきたいことを説明します。これは、前項まで「総務は参謀」と説明しましたが、見方によっては各準備タスクとの関わり合い方が非常に難しい側面があるためです。IPO準備という、会社にとって非常に難儀な、また非常に有意義な時期に、総務として関わることができるのは、大変貴重な経験です。その貴重な経験ができる時期にこそ、総務の皆さんには八面六臂の働きで、会社に大きく貢献していただきたいと考え、心得ていただきたい点を説明します。
ポイントは次のとおりです。
普段の通常業務を怠らないこと。
並行して複数の準備タスクに携わる場合、その業務分量が偏らないこと。
やるべき時期・タスク内容に対しては、率先して携わること。
常にメインメンバーと連携して準備タスクに携わること。
まず「普段の通常業務を怠らないこと」について、これは総務に限らず他の業務担当にも言えることです。IPOは会社成長の “ マイルストーン ” (中間地点、節目)であり、ゴールではありません。言わば通常業務の延長線上の業務です。通常業務がしっかりとできているからこそ、IPO準備ができるのです。逆に、IPO準備タスクのために通常業務が滞るような事態が発生したら、上場は不可能です。
IPO準備の段階で、全社内の通常業務に新しい制度や規則が入り、業務の流れ等が変化して少なからず通常業務に支障が出ることがありますが、通常業務がしっかりと遂行できていればすぐにその変化に対応することは可能であり、それが定着すれば、おのずと上場することができます。そのためにも、普段の通常業務を怠らないことが重要です。
次に「並行して複数の準備タスクに携わる場合、その業務分量が偏らないこと」について、これはバディとしての役割を十分に発揮してもらうためのものです。
IPO準備タスクは、その複数のタスクが並行して進捗します。順番に完結して・・・ということはほとんどありません。そのため、総務の皆さんも必要に応じて複数のタスクに携わるはずです。このとき、その複数のタスクに対して総務の皆さんの得意/不得意があったり、また、メインメンバーから一時期に集中的に携わってほしい旨の要請があるかもしれません。このようなケースでは必ずIPO準備のリーダーまたは総務部門長に相談し、通常業務を含めて各準備タスクの業務分量の調整等を行なってください。総務の皆さんがご自身の判断で調整できるような場合でも、のちに誤解を生じることがありますので、ご自身の判断で調整するのはお控えください。
「やるべき時期・タスク内容に対しては、率先して携わること」については、総務部門として時期的にも、準備タスクの内容としても携わるべきものがあるかと考えますし、総務の皆さん個人としても、今後のスキルアップ等を踏まえて、ぜひ携わりたいと考えるものもあるでしょう。これは、ぜひ率先して携わってください!ただし参謀/バディとして、です。そうでなければ、通常業務に支障が出ますので、十分にご注意ください。
最後に「常にメインメンバーと連携して準備タスクに携わること」について、これも参謀として、バディとして準備タスクに携わっていただくための、重要なポイントです。メインメンバーと連携することで、タスクの進捗具合や進捗促進に必要とする助力などが見えてきます。もちろん、参謀/バディとして自らの業務量も把握できますし、調整もできます。ただし、ここではメインメンバーに業務指示を仰ぐのではありません。参謀として全体を見据え、バディとして他の業務担当との連絡・調整、また必要に応じて自らも行動する、ということです。
以上のポイントを踏まえて、総務の皆さんの活躍をお祈りします。
これまで管理系部門の部署単位という分け方でひと通り横断して説明してきましたが、業務単位では、例えば財務、経営管理、経営企画などが残っています。これらは今後も「管理系部門がIPO準備でやること」シリーズとして継続して説明して参りますが、次回はいったんこのシリーズから外れ、直近で発生している内部監査・内部統制関連の具体事例を取り上げて、内部監査・内部統制のそれぞれの観点で、どのように検出し、または会社として未然に防止することができるかを説明します。
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