"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査 Part.28 -子会社④-
- 長嶋 邦英

- 10月26日
- 読了時間: 9分
上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
今回も「子会社」を内部監査の目線でみていきます。

以前にも数回内部監査の目線で子会社をみてみましたが(※)、直近でも適時開示閲覧システム(TDnet)に子会社における内部統制上の重要な不備の事案が発生しましたので、今回改めて内部監査の目線で子会社をみてみたいと考えております。
※以前の記事は以下のものとなります。(子会社だけでなく事業拠点も含みます)
直近事例から - 概要説明 -
【事案の概要】
ある上場会社は連結子会社A(海外)において貿易取引上の問題の存在を認識し外部専門家による調査を行ったところ、税務上の問題が発生していることを認識した。当該上場会社はその調査結果を踏まえ、更なる社内調査・検討を行いこの問題への対処を進め、その結果有価証券報告書の提出期限延長申請を行い、その承認を得た。 また、これとは別に、別の子会社B(国内)の子会社C(孫会社・海外)において不適切な会計処理が行われている疑義があるとの報告があり、当該上場会社が調査を行ったところ、その調査の過程でさらに子会社B, C以外の子会社においてもそれらの経営陣の関与又は認識の下で、資産性にリスクのある資産に関して評価減の時期を恣意的に検討しているとも解釈しうるなど、不適切な会計処理が行われていたことを疑わせる資料が複数発見された。 当該上場会社はこれらについて会社から独立した第三者委員会による客観性のある調査を行う必要があると判断し、第三者委員会を設置した。
(出典:TDnetに掲載の某社リリースより要約)
子会社を内部監査する際の目線
私たち内部監査が子会社を監査する目線について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。子会社への内部監査を実施するにあたり、気を付けたい目線は次のとおりです。
グループ全体のガバナンス体制
子会社単体のガバナンス体制
子会社から親会社へのレポートライン
内部通報体制
など
今回はこの4点の目線のうち3の続きと4について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
【目線③子会社から親会社へのレポートライン】のつづき
前回の記事では、子会社から親会社へのレポートラインを複数・多面的に持つ必要があるということを説明しました。
<レポートラインを複数・多面化の例>
子会社管理部門が招集する子会社会議(子会社の社長、事業責任者の出席)
親会社の取締役会への子会社の社長、事業責任者の陪席(不定期)
親会社のリスク管理・コンプライアンス委員会への子会社の社長、事業責任者の出席(定期)
親会社の内部通報制度に子会社も入れる
子会社管理部門による子会社への状況調査(定期・内部監査とは別)
親会社の内部監査によるモニタリングと業務監査(定期)
など
これはレポートラインを複数・多面化することで、少しでも親会社として満足できる情報を得られることができますし、レポートラインを複数・多面化することで、少しでも鮮度の良い情報を親会社に集約することが可能だからです。分類に分けると、上の例のうち1〜3は会議体への子会社の社長、事業責任者の出席、いわゆる定期的に報告を上げてもらうレポートラインで、わざわざ会議体を増設したり子会社の社長と事業責任者の負担が増えることになります。ただちに完全実施すること難しいかもしれませんので、適宜、適切な実施をご検討ください。4〜6は多面的な角度からのレポートラインで、機能的にみれば元々役割として必要なものと考えることができます。こちらはできる限り完全実施することをお勧めします。
特に親会社の内部監査によるモニタリングと業務監査(定期)を実施することは上場会社としてはもちろんのことなのですが、実際にモニタリングと業務監査、このうちモニタリングについて何をどの程度できるのかが重要です。例えば、「親会社の内部監査は、子会社も監査範囲としている」としながらも、子会社の各情報等を閲覧する権限が無かったり、子会社の各事業責任者への連絡経路・方法が無いことがあります。これらの「無い」については、子会社への定期的な業務監査においてはあまり問題にはなりませんが、日常的・継続的モニタリングの実施においては芳しくありません。日常的・継続的モニタリングの実施は「ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価し、改善に貢献する。」(「内部監査基準」より引用・日本内部監査協会)ために必要で重要な監査の方法です。上場会社自身はもとより子会社の事業活動等にも日常的・継続的モニタリングの実施と業務監査を定期的に実施することによってガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価することが可能になります。不祥事事案の事例を見ると、日常的・継続的モニタリングと業務監査の定期的な実施の両方が形骸化している、または業務監査を定期的に実施しているが日常的・継続的モニタリングの実施が漏れているケースが多いです。(※各社の調査報告にある結論からみた私の推察です。)モニタリングの方法としては子会社の各情報等(会議体の議事録、稟議等)を定期的に閲覧したり、子会社管理部門による子会社への状況調査の報告を随時入手することなどによることが最適です。これらモニタリングによって得た情報は業務監査の監査手続を作成する際の有効な資料となり、これに基づいて業務監査を実施するのが効果的です。ですから、私たち内部監査にとってレポートラインを複数・多面化することはとても望ましいかたちであり、会社としてもガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価することができる最良の方法だと考えます。ぜひご検討ください。
【目線④内部通報体制】
4つ目の目線は、前にご紹介したレポートラインを複数・多面化の例にも挙げている内部通報体制です。この内部通報体制とは上場会社・親会社のものを指していますが、これに子会社も加えて上場会社・親会社がその体制全体を管理するというものです。これをお勧めする理由は、ガバナンス、リスク・マネジメントの観点で最も効果的であるからです。一見すると、子会社の細かいことについてまで上場会社・親会社が関わる必要があるのか?という疑問が出てくると思いますが、上場会社・親会社のガバナンス、リスク・マネジメント管理体制から見れば、その「子会社の細かいこと」までを把握し必要に応じてその対応策を上場会社・親会社が講じる必要があるからです。上場会社・親会社のグループ管理体制の内容によってはそれぞれの子会社の中で完結させるかたちが望ましいこともあるかもしれませんが、それにしても上場会社・親会社としては適時開示(参照:日本取引所サイト「適時開示が求められる会社情報」)がありますので「まったく知りませんでした」というわけにはいきません。ですから上場会社ではほとんどのケースで上場会社・親会社の内部通報体制に子会社も加えています。
これをお勧めする理由のもうひとつ、最近の不祥事事案は親会社・子会社間やグループ内の子会社間のいわゆる内部取引において発生しているものが多いことです。これらを早期発見するには、内部からの通報が最も有効であり重要です。会計監査人(監査法人)による財務諸表監査や内部監査による定期業務監査のタイミングでは早期発見は難しく、発見した時には上場会社・親会社にとってすでに甚大な被害を被っていることも考えられます。これらを踏まえると、内部通報体制の拡充、つまり上場会社・親会社の内部通報体制に子会社も加えることだけでなく内部通報処理対応の明確化と内部通報体制のグループ全体への浸透が重要です。子会社の従業員としては、自分たちが親会社の内部通報窓口に通報できることは良いが親会社は何もしてくれないとか、自分たちの立場を危うくするような内部通報処理対応では通報できないということになりかねず、このようなことで内部通報体制が形骸化することもあり得ます。ですから内部通報処理対応の明確化と内部通報体制のグループ全体への浸透が重要になるというわけです。ここでは私たち内部監査もこの内部通報体制に積極的に協力する必要があります。内部通報体制の内容がわかりにくいかもしれませんし、誰もが内部通報に慣れているわけではありません。「内部通報すれば大事(おおごと)になる」ことはほぼすべての従業員の皆さんはご存知ですので、かなり重要な情報であっても通報を躊躇する従業員がいるかもしれません。これでは不祥事の早期発見は難しいでしょう。ですから、内部通報体制の中身が問われるところであり、最も重要です。繰り返しになりますが、この点は私たち内部監査は積極的に協力する必要があると考えますので、ぜひご検討をお勧めします。
今回を含め4回にわたり、直近の不祥事事例から内部監査の目線で子会社について考えてみました。私たち内部監査として、どのような方法で子会社を監査するのが最良なのか。また上場会社・親会社として、どのように子会社を管理することが最良なのか。これらは各所でいろいろな方法等が紹介されていますが、まずはそれらを試して実践することをお勧めします。どれか一つにこだわる必要はありません。なぜならその上場会社・親会社や子会社の状況等によって取りうる方法が変化するからです。そのため、冒頭にご紹介した内部監査の目線4つを踏まえ、グループ各社の状況等の情報を収集・把握して十分に検討することをお勧めします。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
IPO準備中企業の内部監査体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業の内部監査体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業の内部監査業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部監査責任者として、社内に1名選任をお願いします。)
この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。



コメント