先日「" 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査」をご紹介しましたところ、ご好評をいただきましたので、第二弾をご紹介したいと考えております。
(約5分程度でお読みいただけます。)
多発している上場会社の " 発生事実 "
TDNET(東京証券取引所の運営する適時開示情報伝達システム)を閲覧すると、最近「有価証券報告書の訂正」、「特別調査委員会」の件名が目立つようになりました。おそらくは3月決算期を迎えた上場会社において、経理の皆さんまたは監査法人の先生方のお働きによって発覚した事案かと推察します。
特にこの時期ですと、決算業務中に見つかる発生事実といえば、決算業務中または会計監査(財務諸表監査)で見つかる仕訳計上の間違いが多いかと思います。ただ、単に仕訳計上の間違いだけでは、過去の有価証券報告書の訂正や、特別調査委員会の発足まで事が大きくなることはないでしょう。
いったい、何が起こっているのでしょうか?
余談ですが、この「特別調査委員会」のメンバーについて、大抵のケースでは監査役や内部監査の社員が直接メンバーになることは無いと思いますが、事案の内容によっては監査役(社外)がメンバーに入ることがあります。このとき、いわゆる事務局のメンバーとして内部監査の社員が入ることがあります。社内の不祥事とはいえ、非常に辛いことでしょう。関係者へのヒアリングなどに立ち会うことは無いにしても、誰が発端で、どのようなきっかけで・・・という事柄を目の当たりにするのですから、そのお気持ちを察するに余りあります。
それでは、今回私が目につきました直近の開示事例を、ご紹介します。
今回はTDNETにて、「有価証券報告書の訂正」と並列して「特別調査委員会の報告」の掲載がありましたものの、その詳細、具体的内容については掘り下げませんが、ある程度概要を踏まえながら、説明したいと考えております。
直近事例から - 概要説明 -
【概要】 当該会社は3月決算で、第3四半期決算発表の延期を、2月初旬に開示しております。理由は、不適切な会計処理が行われている可能性があることが判明し、その内容を社内調査したが、さらに社外の独立した立場の見地から調査分析する必要があるもので、特別調査委員会を発足して当該事案を調査するに至ったもの。 当該会社は、この特別調査委員会の調査結果に基づき、当該年度だけでなく過年度に遡って決算報告内容を訂正する必要があるものと認め、「過年度に係る有価証券報告書等の訂正報告書の提出」をすることとなった。
【事案内容】 (*ここでは、特別調査委員会の調査結果を引用します。) (省略) 「特別調査委員会の調査により、(*受注案件の)年度内の作業が完了したにもかかわらず、作業が残存するとして案件を翌期に繰り越す処理、および年度内にすべての作業が完了しなかった案件について、翌期に発生するであろう残作業を過大に見積もる処理が行われていたことが判明いたしました。 このため、当社は、2019年3月期、2020年3月期、2021年3月期および2022年3月期における決算の訂正を行うこととし、・・・」(以下、省略)
ご覧いただくとおわかりのように、いわゆる不適切な会計処理が行われていた事案で、「作業」とありますので、案件の原価のうち、人件費(労務費、外注費)に関する経理処理が不適切な内容で処理されていたものと推察します。
しかし、ここで、これまで私の記事を閲覧されている皆さんは、お気付きかと思いますが、当該会社は “ 不適切な会計処理 ” としているものの、特別調査委員会の報告では、現場部門での業務の処理が不適切な内容で行われていたもの、と結論づけています。
そうです!
この事案は、経理部門が原価に関する資料を不適切に会計処理したものではなく、現場部門から提出されている原価に関する資料の内容が、不適切で誤った内容のものであったのです。
こうなると、皆さん “ 内部統制 ” の出番です!
その前に、いったん財務諸表監査に目を向けましょう。この不適切な処理は、財務諸表監査において、容易に発見(検出)できる内容でしょうか?
これは私見ですが、容易には発見できるものではないものと推察します。おそらく当該会社はこの不適切な業務処理を、恒常的に、日常業務の一環として、行なっていたものと推察します。そうであれば、その不適切な業務処理のもとで作成した書類(=証憑)に基づき経理処理が行われているのですから、一見して他の案件と比較しても「何か違う」的な点を見つけることは難しいでしょう。
また、契約条件の内容に、人件費がかかる(またはその他の費用がかかる)と見積もりをしていても、実際には “ かからなかった ” ということもあるかと思います。そのため、原価金額だけを見ても、それが不適切な業務処理かどうかを判別できるものではありません。
そのためにも、内部統制の評価は、とても重要な役割なのです。
今回の事案について、内部統制の側面から、具体的に見ていきましょう。
皆さんの会社でも、業務プロセス(PLC)のうち “ 原価管理 ” プロセスについて評価を実施していると思います。業界、業種によって違いがありますが、大きく分けると次のようになります。
①原材料(資材)費
②外注費
③労務費(社内社員の人件費)
④管理費(工期、工程中の機材使用、その他雑費を含む)
内部統制では、上の項目ごとに統制項目を設定し3点セットを作成しています。その際に、業務上で部門内外において流通する書類(=証憑)について、すべて洗い出しを行い、このうち統制項目において「何が財務報告に必要な書類なのか」を Pick up して業務記述および業務フロー図に記載し、これを証憑として収集するため RCM に明記していく・・・というようにしていると思います。
ここまでくると、もう皆さんはおわかりですね。
そうです!
この「業務上で部門内外において流通する書類(=証憑)をすべて洗い出す」のところが、内部統制の評価担当者、評価責任者の “ 腕の見せ所 ” なのです!
ここで、もし洗い出しの際に漏れている書類があったら?
または現場部門内で同じ業務処理を行うのに、同じような書類があったら?
さらに、この書類について、上長承認欄が無い場合は?または必要以上に高い位置の上長まで承認を得ている場合は? ・・・キリが無いですね。
このように見ていきますと、どうやら今回のような事案を、的確に、正確に、網羅的に発見できるのは、内部統制の評価の時点ではないかと考えます。さらに言いますと、運用評価は大抵の上場企業では第3四半期あたりで実施すると思います(*場合によっては期末決算を終えた時点で実施することもあります)ので、事業年度がだいぶ経ってから発見しても、当該会社にとっては “ 不祥事 = 致命傷 ” です。
そのため、3点セットで Pick up した証憑について、いわゆる「日常的モニタリング」を、文字通り丁寧に実施し、運用評価時において「不測の事態」が生じないように、内部統制評価担当者、評価責任者が目を光らせていく必要があると考えます。
なお、今回の事案では、内部統制評価担当者と評価責任者が、原価管理プロセスで「見るべき証憑」のポイントは、各作業工程における人件費(外注費、労務費)の算出の根拠資料です。
例えば、SI( System Integration )の会社では、各案件についてプロジェクト管理を行い、各作業を行う社員、外注先の工数(時間)を記録しています。通常ですと、この記録を参照(=証憑として内容を確認)するかと思いますが、ここではさらに、少なくとも当該「各作業を行う社員」の、日常の勤怠簿と照合することをお勧めします。SIはもちろんPCを使用して各作業を行いますので、原価管理システムに連動して、当該作業を行なった記録(ログ)が、自動的にPCから原価管理システムにログとして残る仕組みもあります。このシステムを導入している上場会社であれば勤怠簿まで照合する必要はないものと考えますが、もしこのシステムを導入していない会社でしたら、勤怠簿の照合までを統制項目に入れてください。原価管理プロセスの評価の精度がかなり向上しますので、ぜひ実施してみてください。
別件で、もうひとつ。特別調査委員会の報告の中に、とても悲しい事実の記載がありました。
今回の事案で、じつは、この事案が発覚した発端は “ 内部通報 ” なのです。前述の内部統制の機能が芳しくなかったようです。
当該会社で内部通報制度が有効に機能していたことは、とても素晴らしいことです。この点については、当該会社を評価してもよろしいかと考えます。
しかし、その反面、先に説明しましたように、財務諸表監査で発見できなかったこと。また内部統制の評価においても、本来業務内容を熟知して業務記述を作成していたにもかかわらず、これをちゃんと把握しないまま評価を行なって業務の不適切処理を見過ごして評価が実施されてしまい、結果として表面的な「適合(=不備無し)」の評価結果を出してしまった。これらは私 “ 内部統制エヴァンジェリスト ” としては、背筋の凍るような事案であると考えております。
他の上場会社、およびいま現在上場準備をしている会社の皆さんへ、内部統制の重要性をお伝えする良い機会/材料ですので、ぜひこのような事案について、学び続けていただけたらと願っております。
改めて「発生事実が発生しない上場会社にするには」
皆さんの会社が " 発生事実 " が発生しない上場会社にするためには、いったい何をしたら良いでしょうか?
先日の記事にも記載しましたが、改めてポイントを挙げさせていただきますが、最後の3つ(黒太文字)については、今回追記しました。
各部門の長(本部長、部長級)にしっかりとした " 内部統制 " に関する知識が備わっている。または少なくとも年1回程度社内研修を実施している。
組織上、牽制する関係となっている部門/部署が設置されている。 (例:営業部門内に、営業と営業管理があり、見積書、契約書類を営業管理が管理している。契約稟議のフローに管理部門、法務部門の承認フローが入っている。など。)
営業資料(および契約書類)を、内部監査が適宜閲覧できるようにしている。
統制項目の証憑の洗い出しは、すべての社内書類について実施している。
全証憑については、その承認フローの有無等細かい点についても確認している。
個々の証憑について、その前後の証憑および全部の証憑と照合するなどして、正確性や網羅性、表示の妥当性等を評価している。
今回の記事で一番大きなポイントは「証憑」です。
証憑は、ひとつの業務の証拠でもあり、また一連の案件を網羅的に、正確な業務が行われていることの証拠にもなります。漫然と証憑の有無、承認の有無等を確認するだけでなく、毎年同じ証憑(=書類)を見ていても、
本当にこの証憑は必要なのか?
正しい内容を表記しているのか?
他の証憑と照合して、抜け漏れが無いか?
他の証憑と照合して、改ざん可能な余地が無いか?
など、いろいろ思い巡らしながら書面監査していきましょう。
内部統制は、時間と頭を使う業務ですが、効率的に時間と思考(=頭)の配分を計画したうえで評価を実施すれば、誤りを見過ごすことは無くなるでしょう。
今回は、少々細かい点まで説明が及んでしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
今後、違うケースで、内部統制、内部監査の側面で学びの材料になるものがありましたら、ご紹介していきたいと考えております。
もし、皆さんの方から、具体的なケースについてのお問い合わせ等がありましたら、ぜひご連絡ください。解決の一歩をご紹介できるものと考えております。
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当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
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この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。
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