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内部統制に向き合う Part.11 -決算・財務報告プロセス①-

  • 執筆者の写真: 長嶋 邦英
    長嶋 邦英
  • 11月2日
  • 読了時間: 8分

 2023年04月内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が15年ぶりに改訂されて内部統制が様変わりし、皆さんの会社では豊富な知識と蓄積された経験をもとに日々内部統制を進化させていることと思います。その知識と経験をいったん振り返って整理し、さらに実践に役立つ戦略・戦術として活かすことを考えてみたいと思います。

 今回は、決算・財務報告プロセス(以下「FCRP」といいます)です。




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【参考となる書籍・資料】

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(企業会計審議会・金融庁)



FCRPは財務報告の信頼性の「結論」

 これまでIT統制、業務プロセス(PLC)の順にみてきましたが、今回は決算・財務報告プロセス(FCRP)となります。すでに内部統制のご経験が長い・深い皆さんはすでにお気づきだと思いますが、この順にみてきた理由は会社の内部統制体制の構成として、ITGC・ITAC→PLC→FCRP→CLCの順で成り立っているからで、皆さんと一緒に考える際もこの順でみるのが効率的だと思った次第です。


 FCRPについては、皆さんの会社で相当なご苦労をされているものと思います。私もいろいろ各社のFCRPを拝見し、実際に内部統制体制の構築や評価のお手伝いをさせていただきました。どの会社の経理部門の部門長をはじめ経理業務に携わっている担当の皆さんは、日々膨大な経理業務を懸命に遂行し、抜け・漏れ・誤りの無い確かな業務遂行に励んでいらっしゃいます。しかし、売上高や売上原価、経費等の数字たちがこの経理部門に上がってくるまでに抜け・漏れ・誤りが有れば台無しです。経理部門は3ラインモデル(IIAの3ラインモデル・日本内部監査協会をご参照ください。)の第2ラインを担っていますが、第1ラインでの抜け・漏れ・誤りのすべてを経理部門だけでチェックすることは難しいですし、日々膨大な経理業務があるうえでこれを求めるのはとても酷なお話しだと思います。ですから第1ラインに至るまでの業務の正確性・合理性を確かなものにし、第1ラインでその正確性・合理性をチェックする。そのうえで第2ラインでモニタリングを行うということになるのですが、それらをどのように行なっているのかの内容が、どの会社もPLC、FCRPの証憑に違いがあります。その違いがあっても、PLCで業務プロセスの正確性・合理性を証明し、FCRPで財務報告の信頼性を証明しています。完璧な会社はいくらでもあります。それらを見て私が思ったことは、FCRPは財務報告の信頼性の結論であるということです。逆に言えば、PLCで業務プロセスの正確性・合理性が証明できないのにFCRPで財務報告の信頼性を証明することはできないことからも明らかです。これまで「"発生事実(不祥事/不正行為)"が発生しない上場会社の内部監査」の記事でいろいろな不祥事の直近事例をご紹介しましたが、ほんの一部のところで発生した不祥事は会社の財務報告全部を台無しにし、会社全体を不幸にします。

 また、FCRPはPLCの評価範囲となる業務、勘定科目等だけでなく、その会社の勘定科目全部が対象です。PLCの評価ですべて適合の結論を得たとしても、FCRPも問題無しとは言えません。ですからFCRPの評価は、他のプロセスの評価に比べて評価の範囲が広く手続も難しいです。J-SOXに対しUS-SOXでは「評価範囲」という考えが無く、まさに勘定科目全部です。J-SOXでも今後いわゆる「3勘定(売上高・売掛金・棚卸資産)」の考えがなくなりPLCとFCRPの評価作業のボリュームが考えられますが(※以前の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.07 - 評価範囲①・勘定科目 -」をご参照ください)、そもそも現在の時点でこのFCRPをどの程度広く・深く評価を行なっているのか重要なポイントです。



【FCRPのポイント①】「全社」より「個別」に重点を置く

 現在IPO準備されている会社の皆さんやすでに上場されている会社の皆さんのなかには、監査法人の先生方からのFCRPに関するご指導が厳しくなっていると感じていらしゃると思います。これは冒頭の【参考となる書籍・資料】に挙げている「監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(日本公認会計士協会)」に基づいたご指導だと理解しています。これは2019(令和元)年12月06日付企業会計審議会が公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」を受けた財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂を踏まえ、関連する実務指針の検討を行ったものであるとのことです。この資料にある「内部統制監査」は会計監査人が実施する内部統制監査のことですから、皆さんの会社が評価する内部統制評価(監査)とは別のものとなります。しかし、やっていることは一緒ですので、ぜひ参考にすることをお勧めします。

 この記事では詳細を挙げませんが、この資料で注目していただきたい箇所が2箇所あります。それは「《3.決算・財務報告プロセス》」(「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」46-47ページ)の168番です。

168. 内部統制評価の実施基準では、決算・財務報告に係る業務プロセスを、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものと財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加することが適切なものがあるとの整理がされている。これは、連結会計方針の決定や会計上の予測、見積りなど経営者の方針や考え方等のように全社的な内部統制に性格的に近いといえるものと、個別財務諸表作成に当たっての決算整理に関する手続等は、業務プロセスに係る内部統制に近い性格があるとの解釈と考えられる。

 ここではFCRPの個別で評価する手続(業務)は「業務プロセスに係る内部統制に近い性格がある」、つまり業務プロセスで作成したような3点セットをFCRPの個別で評価する手続(業務)についても準備する必要があるという考えが述べられています。FCRPの個別評価にまで3点セットを作成するのは面倒かもしれませんが、これがあることによってしっかりとした評価を行うことができますし、後になって公正な評価であることを証明することも可能です。ぜひお勧めします。


 また、同じく「《3.決算・財務報告プロセス》」の「《(2) 財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加する場合》」も同じく注目ポイントです。

《(2) 財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加する場合》 173. 財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加する決算・財務報告プロセスには、例えば、事業拠点における決算処理手続等が該当すると考えられる。引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスで財務報告に及ぼす影響が最終的に大きくなる可能性があるものは、追加的に経営者による評価の対象に含めるかどうかを検討しなければならない。個別に評価対象に追加された場合、フローチャート等の記録を入手し、原則として他の業務プロセスにおける監査手続と同様の手続を実施し、経営者による当該プロセスの内部統制の整備状況や運用状況の評価が妥当であるかどうかを確かめなければならない。

 ここではFCRPの個別で評価するものとして「引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目」を挙げていますが、これだけでなく会社のBS, PLをよく確認して分析したうえで、単に金額の多少に関わらず財務報告と事業に大きく影響すると考えられる重要な勘定科目を挙げることをお勧めします。この部分は経営者の内部統制への姿勢や考え方が読み取れてしまうことにもなりますので、十分ご注意ください。


 冒頭でも申しあげましたが、FCRPは皆さんの会社だけでなく多くの会社で相当なご苦労をされているのですが、意外とこれについて会社側としてよく理解できる/腑に落ちるFCRPの説明があまり無かったように思いますし、今回ご紹介した日本公認会計士協会の資料を初めてご覧になる方もいらっしゃると思います。ただし、評価する側の私たちとしては理解しなければならないものであり、公認会計士の先生方のような専門家にお任せ・・・というわけにはいきません。

 次回も引き続きFCRPについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。






当社が提供するサービスとして


当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、


  1. IPO準備中企業の内部統制体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業の内部統制体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業の内部統制にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部統制責任者として、社内に1名選任をお願いします。)


 この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。



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