今回は、テーマ監査の仕方を通して内部監査の在り方を考えて見たいと思っております。
テーマ監査の重要性②
「内部監査の在り方 Part. 03 - 内部監査年間計画 -」では、内部監査年間計画の全体像を見ながら内部監査の在り方を皆さんと考えてみました。そして「内部監査の在り方 Part. 04 - テーマ監査 -」ではテーマ決めのアイデアとして、内部監査年間計画と会社の事業計画やリスク管理とリンクさせることをご紹介しました。内部監査の皆さんもこのテーマ決め自体での苦労はあまり無いかと思いますが、問題はその挙げたテーマについて、
どのように監査するのか(監査方法など)
どの観点で監査するのか(整備状況の確認、リスク管理など)
どの程度監査するのか(監査範囲、規模、深掘り度など)
これらを考えるときにご苦労があるのではないでしょうか。これらについてのアイデアを、今後数回の記事にわたってご紹介したいと考えております。
【アイデア1】相手を知る
まずは「相手を知る」ことです。これはテーマ監査のテーマ決めの後でも良いのですが、できればテーマ決めの前に行うこととしてお勧めします。この「相手」とは次のようなものです。
テーマ自体(業務、リスクなど)
テーマの背景
テーマ自体を所管する部門(業務担当部門) など
相手を知ることは、とても大切なことです。特に事前準備の段階では、そのすべてを知ることは難しいです。ただし、その逆を言えば知る必要はないかもしれません。その理由は、例えばそのテーマについてもうすでに問題点やリスク等が表面化しているのであれば、それらを解決するために部門・部署、プロジェクトチームが対応策を検討し、対応策を実施しているかもしれません。そこにわざわざ内部監査が割って入る必要はありません。逆に、問題点やリスク等が表面化していない場合、内部監査はその点について①本当に問題点やリスクが無いのか、②問題点やリスクを見落としているのではないか、③問題点やリスクが顕在化しすぎて回避・低減等の対応をなおざりにしているのではないか、などを内部監査の目線で監査する必要があります。この①〜③は、監査に入る前に知る必要があります。これが「相手を知る」ということになります。
以前にもご紹介しましたが、孫子に「彼を知りて己れを知れば、百戦して殆うからず」という言葉があります(「孫子」謀攻篇・五より引用)。内部監査は戦いではありませんし、その「相手」は戦う相手ではありませんが、相手を知ることがとても重要です。ただ、皆さんはこの「彼を知り」の前段の言葉をご存知でしょうか。「彼を知り」は「孫子」謀攻篇・五の後半部分なのですが、この前半部分がとても重要です。
故に勝を知るに五あり。戦うべきと戦うべからざるとを知るものは勝つ。衆寡の用を識る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。
(出典:「孫子」謀攻篇・五 前半部分)
上の言葉は勝つための五つの方法を述べているもので、このあとに「彼を知り」につながります。ここで内部監査にとって大切なのは「戦ってよいときと戦ってはいけないときをわきまえていれば勝つ」の部分です。さきほど例に挙げたように、事前準備の段階で相手を知ることができたとき、もしそのテーマについてもうすでに問題点やリスク等が表面化しているのであれば、それらを解決するために部門・部署、プロジェクトチームが対応策を検討し、対応策を実施しているかもしれません。そのような場合、わざわざそこに内部監査が割って入ったら部門・部署、プロジェクトチームは混乱するでしょう。この場合は側面でその状況を見守り、対応策の実施が完了した時点で内部監査を行うのです(もちろん事前に通知します)。また、もし問題点やリスクが潜在的なものをたまたま内部監査がそれらを発見していきなり内部監査を実施しても、部門・部署にはその実感が無いかも知れません。内部監査を行なってもよいときと行ってはいけないときをわきまえるために、まずは事前準備の段階に「相手を知る」ことをお勧めします。テーマ決めのときに行うのもお勧めです。
【アイデア2】書面監査に時間を掛ける
内部監査が行う監査の方法は、皆さんご存知のとおり①書面監査②ヒアリング③実査があります。これらの方法のどれもが大切なのですが、特に大切にしていただきたいとお勧めするのが①書面監査です。その理由は、業務等の記録である書面は監査のためだけでなく、会社の事業推進、業務遂行ひいては会社が創業以来歩んできた記録であり、それらの記録は会社自身でもあるからです。会社の各業務は、定期的にローテーションで業務担当者が替わることもあれば、長期に渡りその業務に携わる重鎮的な役割を担っている業務担当者もいらっしゃるでしょう。ローテーションで業務担当者が替わったとしても業務マニュアルに変更が無ければそこにある記録に大きな変更はありませんし、長期間携わっている業務担当者がいたとしても定期的に業務改善に取り組んでいる方であればその改善状況は記録に表れます。内部監査を実施するに当たっては、このような業務等の記録である書面を読み解いて把握して理解する時間が必要だと考えます。
また、別の観点で説明しますと、業務等の記録である書面を読み解いて把握して理解することによって、不祥事・不正行為やその前兆を発見することも可能です。会社の不祥事・不正行為に関する記事でご紹介していますが、不祥事・不正行為は必ず記録に表れます。会社の銀行口座から不正に金員を引き出した場合、社内に記録が残らないと思われるかもしれませんが必ず銀行の「入出金明細」に記録されて経理担当者が月次で確認しています。また、売上高を不正に水増ししても請求書を発行しますし、半期次/年次に取引先に問い合わせする「残高確認書」で売掛債権残高を照合します。いずれの場合でも、不祥事・不正行為は隠れて行っているつもりでも必ず記録は残ります。内部監査はそのような不祥事・不正行為やその前兆を把握する必要がありますし、もしかしたらその業務担当部門や管理担当部門でそれをすでに気付いているか把握しているかも知れません。そのようなときに備えるためにも、ぜひ業務等の記録である書面を読み解いて把握して理解するために時間を掛けることをお勧めします。
今回は記事の文字数の関係でここまでにさせていただきます。次回はもう少し監査の方法やどの観点で監査するかなどを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
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この機会に、ぜひ内部監査のあり方、必要性をご理解いただき、内部監査体制構築/再構築をご検討ください。
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